第9話 彼女を知りたい

 いつも通りに、昼前に起きて念入りにメイクを施しどこかに出掛けるみちるを笑顔で見送った。


 今日こそ、仕事を探そうって決めていたんだ。服を着替えて、アパートを出る。

 とりあえず、給料がまぁまぁな所でいいから定職を持とう。


 きっと、俺がちゃんとすれば、みちるだって少しは楽になるだろう。タクシーをガンガン使うような生活も良くないよな。


 金貯めて、もーちょっといい部屋に引っ越したいし、なんて考えながらバス停まで歩くとバスが来るのを待った。バス移動なんて、どれくらいぶりだろう。


 よく考えると、スロットで大勝ちするようになってから金銭感覚が狂い始めたよな。


 気付いて良かった__


 これからは、みちるとの未来の為に少しでも節約をしていこう。


 久しぶりにバスを使うと面倒くさい。

 タクシーなら呼んで、目的地を告げるだけなのに。 なんて、不満を抱きながらもこれから頑張ってみちるの笑顔が見れるんだと思うと、大した苦痛も感じない。


 地道に沢山貯金して、車の免許とってみちるとドライブとかもいいな。なんて、考えるだけで幸せな気分になれる自分は幸せ者だな。 なんて、考えているうちに職安前のバス停に着いた。


 バスを降りて、歩いて職安に向かう。久しぶりの職安にワクワクしながら、中に入ると、先輩と遭遇した。


「おー?優斗!!お前、仕事さがしてるの?」

「そうなんですよー!!」

「俺も、金が尽きたから仕事探してるんだよなぁー!」

「俺もそんな感じ」


 本当は、みちるの為だけどな……

 うん?みちると言えば……


「先輩……」

「んっ?」

「先輩って、○○中学出身でしたよね?」

「ん?そうだけど。どうした!?」


 ○○中学はみちるが通っていた、中学校だと思う。みちるの生い立ちの話をよく聞かされるんだけど、その中学校の名前が出て来た事があるんだよ。


 もしも、みちるの話が本当だとしたら。


「先輩……。高野江美って子知ってますか?」


 裏でこそこそ、みちるの事を調べているみたいで罪悪感を感じるけど……。知りたいんだよ。


「あー!知ってるつーか、同級生だよ。

 何?友達かなんか?」

「いや。彼女です」


 一瞬、彼女って言っていいのか迷ったけど。

 いいよな?


「うわ!お前凄いなー」


 へっ?俺、なんかしたっけ?


「高野ってー、ちょー、暗い幽霊みたいな奴だろー?顔とか覚えてねーけど、悪目立ちしてた記憶がある!笑わねーし、喋らないし、みたいな変な女だよなー!?

 お前、ゲテモノ好きだったりする?」


 へっ。

 それって、マジでみちる?


 俺の知っているみちるは、ネガティブだけど感情豊かで可愛い最高の女の子だ。

 でも、先輩が話している高野がみちるだとしたら、けっこーむかつくな。

 俺の惚れた女を悪く言うなつーの!!


 ここで、先輩に文句のひとつやふたつ言えたらいいんだけど。


「俺の彼女は最高ですよ。ところで、先輩って卒業アルまだ持ってますか?」


 みちるを悪く言った事よりも、みちるの過去を知りたいと、思ってしまった俺は最低だ。


 俺はみちるの過去を何も知らない。ぶっちゃけて言うと、今のみちるが大好きだから、過去なんて気にならない。けど、みちるが過去に縛られて変になっているのなら、楽にしてあげたいんだ。


 よく、分からないけどさ。

 可能性があるのなら、みちるに普通になって欲しい。楽になって欲しいんだ。



「卒アルなら家にあるけどー?」


 のほほんとした表情でそう言い放つ先輩に、


「時間があれば、職安で仕事探したあと卒アル見せて貰えませんかね…?」


 そう、切り出すと「別にいいよ」と返事が帰って来た。とりあえずは、求人に目を通し面接の予定を取る。

 あとは、先輩の家に行くだけ。


 先輩は車を持っていたから、一緒に乗せてもらい目的地に向かい。


 __過去のみちる。

 いったい、どんな子なんだろう。みちるがどんな顔でも、好きな自信はあるけど、それが100パーセントなのか?

 って、聞かれたら100パーセントなんてないという答えが真実だろう。


「着いたよ!」


 先輩にそう声を掛けられ車を降りた。

 家の中に通されると、先輩の母親がお茶を出してきたから軽く会釈をして、お礼を言った。


「えーっと、どこにやったかなー?」


 先輩はそんな事を呟きながらクローゼットの中を物色している。その数分後……、「あったー!!」という声が聞こえワクワク感と不安感が入り乱れるような気分になった。


「これこれ!!しかし、何で自分の彼女の卒アルを見たい訳ー?本人に見せて貰えばいいのにさ!!」


 見せて貰いたいけど、そんな話をしたらみちるの機嫌が悪くなるなるかも知れない。

 みちるを傷付けるかも知れない。

 そんな事を思っている間に、先輩は真顔で卒業アルバムのページをめくっている。


「いた、いた。この子だろー?」


 そう言いながら、先輩が卒業アルバムに指を指していて、その先には、高野江美という文字。その上には、真っ黒で癖っけの垢抜けない女の子が無表情でこっちを見ている。


 確かに、今のみちるとは全然違う。

 でもさ、俺はこの子がみちるなんだってすぐに分かった。


 たまに、みちるが凄く寂しそうな瞳でなにもない空間を見てる時があるんだけど、その時と全く同じ瞳を高野江美がしてるんだよ。


 しかし、どういう事だろうか__


 みちるから聞いた話だと、みちるは可愛くなかったはずだよな?でも、卒業アルバムに写っている高野江美は綺麗だと、思う。


 確かに今のみちるみたいな、華やかさはないものの、涼しげな目元が印象的で、爽やかさと綺麗さを感じる。

 そんなみちるを眺めていると、


『『あたしね、凄い不細工だったの!!今で こそ普通になれたケド、昔はひどかったの。 でね、顔の事で馬鹿にされたり、無視されたりしてたの。時には、男子に暴力的な事をされる事もあった。石を投 げられて、怪我をした事だってあるんだ よ。 優斗はさ、そういう事された事ある?』』


 みちるが俺に話してくれたみちるの過去が、何度も……、何度も……、脳内で蘇る。


 はっきり言うと、みちるの過去の話を聞いて想像していた過去のみちると目のあたりにしたみちるが違いすぎる。


 そうは、思ったもののみちるに過去の話を聞くのも嫌だし、どうしょうもない事をグダグダと考えるのも嫌いだからアルバムを閉じた。


「アルバム見せてくれて、ありがとうございます」


 それを先輩に返す。少しだけ先輩と話をして、みちるが帰って来る時間帯になる前にアパートに戻り部屋でボーッとしながら、とりあえず今は、みちるを幸せにしようと心に誓う。



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