第4話 彼女と離れたくない

 みちると出会ってから、不思議な生活が続いた。それは、不思議で、甘い、現実逃避でもしているかのような生活。

 でも、その生活が異常だなんて気が付かないくらい幸せで、ずっと、このままでいたいと願った。


 昼起きて、イチャイチャして、みちるの話を聞いて、食べ物を買いに行って、また、ふたりの世界に引きこもる。普通の生活をしている人間だったら、有り得ないような生活。

 でも、そんな生活に違和感すら持たなかった。


 目の前の現実が幸せだから、それしか見る気が無かったんだよ。今までの孤独感がみちるによって埋められていく。それが、幸せだったんだ。


「ねぇ、優斗」

「ん?」

「あたし、優斗に出会えて本当に幸せだな」

「俺も幸せ過ぎる!」

「嬉しい!!あたしの方が幸せだよ。

 だって、あたしの事こんなに理解してくれる人なんて優斗だけだもん」


 みちるは俺が欲しい言葉をくれる。


「俺の方が幸せだよ!」

「ううん。あたしが一番幸せ。

 あたしね……。優斗に会えなかったら生きる屍になってたと思うんだ。

 優斗が居なかったら、今頃生きて無かったかもなぁ__」


 みちるはたまに怖い事を言うけど、それだけ辛い人生を過ごしてたって事だよな。

 だからこそ、本気で思うんだ。みちるを守れるのは俺だけなんだって。


 みちるが今まで、辛い環境で生きていたのなら、俺が優しく優しく、全ての攻撃から守ってやりたいって。

 俺がクッションになって、二度とみちるが傷付く事の無い環境を作って甘えさせてやりたいって、本気で思う。


 やべえな。

 出会って、一週間で馬鹿みたいにのめり込んでいる俺がいる。

 みちるが好きで、守りたくてたまらない。

 そんな事を思っていたら。


「ねぇ…、優斗…」


 みちるはどこか不安そうな声で俺の名前を呟いた。こういう声を出す時のみちるの表情はどこか悲しげで、守ってやりたい願望が高まって行く。


「どした?」

「あたしってさ……、不細工だよね?」


 へっ?

 みちるが不細工?

 めちゃくちゃ可愛いですが、何か?


 みちるはたまに、とんでもないネガティブ発言をする。こんなに可愛いのに、自分に自信が持てないみちるが可愛くて、そして、自分と重なって、更に愛しく感じてしまう。


 でもさ、みちるは俺の人生に希望の光を与えてくれた女だし大好きだから、もっと自分に自信を持って楽になって欲しいんだよ。

 そして、沢山の笑顔を俺に見せて欲しいんだ。


「みちるは今まで出会った女の中で一番可愛いよ」

「本当に……?」

「うん!!」

「そう言って貰えて凄く嬉しい。でもね、優斗を騙すのは嫌だから嘘はダメだから……。

 本当の事言うね………」


 はっ!?

 騙す? 

 本当の事?


 みちるが話している内容が理解出来ずに、唖然としながらみちるの唇を眺める。その唇はゆっくりと動きながら、言葉を発する。


「あたしね、整形してるの。この顔は偽物なんだよ?あたしの事、嫌いになっちゃったかな?」


 は?

 整形?

 偽物?

 俺がみちるを嫌いになる?


 確かに、みちるが整形してたという事実を知ってショックだけど、騙されたなんて思わない。と、いうか。

 こんな、人には言いたくないような話をしてくれるなんて、俺の事を信用してくれている証だよな?


 でも、こんな事を話されてなんて返答したらいいのか分からないのが現実だ。


「そんな事、気にしないよ。

 俺みちるの性格好きになったから!!」


 で、俺の口から出たのはありきたりな台詞。


 でも、これは事実。俺はみちるの性格が好きだ。ちょっと、普通の人間とは違って刺激的で、甘え上手。そして、何より。

 みちるは可哀想だから、俺が守ってやらないとバラバラに崩れてしまいそうな危うさが俺の守ってやりたい願望を激しく刺激する。


「そう言って貰えて嬉しい。でもさ、優斗はあたしの性格だけが好きなの?顔は嫌いなのかな?」


 顔は嫌いなのかな?

 って、普通そんな事聞くか?


 みちるの顔。ぶっちゃけて言うと、最初はその整った顔に惹かれた。

 でも、それだけじゃない。

 一番すきだったのは、みちるの優しさ。

 でも、なんて返答したらいいのか分からない。だって、想定外の質問なんだよ!


「俺、みちるの顔大好きだよ。

 でも、整形前のみちるの事も好きになる自信はある。

 だって、みちるの全部が好きなんだよ!!みちるが好き!!」


 ありきたりな俺の返答に、疑っているような眼差しで首を傾げるみちる。


 やべえ。俺、変な事言っちゃったかな?


「優斗ー!!そう言ってくれてありがとー!!」


 そう言いながら、俺にしがみついて来るみちるを見てホッとしていると、みちるの唇が耳元に近付いて来て。


「でも、さ。男って、女の顔と身体しか見てないでしょ?」


 背筋がゾクッとするような、恨みを込めた声でそう呟いた。なんだよ!なんなんだよ。

 その、質問?


 ねぇ。みちるは俺の事をそういう男だと思っているの?

 確かに出会ったばかりで俺の事を完全に信用するのは無理だとしても、そういう風に思われるのは悲しいし、傷付くよ。


「俺は、みちるの事をそんな風には思っていない!!!」


 ただ、みちるの全てが好きで守りたいだけなんだよ。

 なあ。みちるは俺の事信用してないのかよ?!

 みちるに信じて欲しいから、ううん。

 みちるに信じて貰えないって事が悲しくて、キツイ言い方をしてしまったかも知れない。


「優斗……、変な話しちゃってごめんね。でも、それでもあたしの事好きって言ってくれて嬉しかった。実はね……」


 実はね?

 まだ、何かあるのか?


「前付き合ってた人に不細工だから整形しろって言われたの。学生時代から不細工って事でいじめられていて、それがコンプレックスで、整形しちゃったんだ……」


 ポロポロと大粒の涙を流しながら、辛かった過去を告白してくれるみちるが可哀想で堪らない。みちるって、本当に苦労してるんだな。俺が守ってやらないと、みちるは駄目になってしまう。


「そうなんだ。

 でもさ、過去が辛かった分!これからは俺が絶対に幸せにするからさ!!」


 俺を信じてよ。

 そして、俺を頼って__


 さっきまでポロポロと涙を流していたみちるの顔が、一瞬にして笑顔に切り替わる。そして。


「優斗ありがとー!!

 あたしは、優斗がそう言ってくれるだけで幸せだよぉ!!優斗大好き!!!」


 甘えた仕草で、声で、俺に抱き付いて来るみちるが可愛くて仕方がない。

 俺はみちるに必要とされている。

 それだけで、何でもするよ。


「ねえ、みちる?

 俺さぁ…。仕事辞めたばっかりで、みちるからしたら頼りないかも知れないけど、すぐにでも働いてみちるに楽させれるように頑張るよ!!」


 でさぁ、みちるを楽させて。

 そのうち、結婚して。

 子供とか出来て。



 そんな想像をするだけで…………、

 何で、こんなに幸せなんだろう?


「優斗君、仕事辞めたばっかりなんだー?」

「う…うん。

 でも、すぐにでも働くし当分生活する金は有るから大丈夫だよ?」


 うは。

 やべえ。せっかく、こんないい子に出会えたのに振られたりしないかな?

 こんな事なら仕事辞めなければ良かった__


「優斗君……」

「ん?」

「何で、仕事してないのにお金が有るの?」


 っ……。

 それは。


「前働いてた給料が残ってるのと、スロットでずっと勝ってて……」


 みちるはギャンブルとかする男嫌いかな?

 でも、一文無しよりマシだよな?


「そっかぁ……。なるほど。じゃあ、仕事当分しなくていいよ!ほら、あたし達付き合ったばっかりだし……、もう少しでいいから今の暮らしを続けたいんだよね。

 優斗とずっと一緒に居たいの!!

 仕事なんて、もう少し落ち付いてからしたらいいと思うし」


 想像すらしていなかった、みちるの返答に唖然としていると、


「あたし、優斗君と一時も離れたくないんだ!」


 すがりつくように、そう言ってくるみちるが可愛くて仕方がない。

 _____そうだよな。

 別に金に困ってる訳じゃない。

 もう少し……。もう少しだけ、この生活を楽しんでから働けばいいんだよな?


 何より、普通の女だったら稼ぎが無い事を責めるだろうに、そんな事よりも俺と一緒に居る時間を欲しがるみちるが可愛いし、それだけ俺の存在を必要としてくれるみちるが愛しい。


 こんなに幸せで大丈夫なのだろうか?

 って、不安になるくらい幸せだ。


 だから、俺達は少しの時間だけ二人の世界に引きこもる事にしたんだ。

 一緒にお風呂に入って、一緒に眠る。

 一緒にコンビニに出掛けて、一緒にコンビニ弁当を食べる。

 二人で沢山喋って、一緒にテレビを見て。


 笑って、キスをして、愛し合って眠る。



 この時は最高に幸せだったよ。


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