第3話 彼女は天使というか、小悪魔?
「ねえ。どこ行く?」
みちるが甘えた声でそう聞いて来た。
しまった。ヤバい……
俺は今までの人生で彼女なんて居た事が無いから、ぶっちゃけてデートすらした事無い!!
デートってどこ行くの?
不幸な事にここは、ど田舎!!
でも不幸中の幸いか金だけは沢山ある。
パチンコで稼いだ金だ。
車の免許なんて無いから、タクシーでゲーセンに行く?
もしくは、カラオケとか?
それくらいしか遊ぶ場所が思い付かず、考え込んでいると、
「田舎だから遊ぶ場所無いよねー。そうだ、家近いから遊びに来る?」
なんて、言い出すみちるに警戒心の薄い子だなって思ってしまう。でも……
俺も男だから、2人っきりになりたいという気持ちだってある。
みちるは俺の事嫌ってないみたいだから、上手く行けば……なんて、展開も。
この時の俺は【上手い話には裏がある】なんて思いもしなかったんだ。
そんな経験した事なんて無かったし、みちるみたいな人が存在するなんて思わなかったから……
だから、何も考えずに甘い夢を見ながら頷いた。
「じゃあ、お酒でも飲みながら家でおしゃべりしよう!
コンビニ寄るね」
みちるはそれだけ言うと、俺の手を握って歩き出した。コンビニに付くと、やたら大量の酒や食べ物、雑誌なんかをかごに入れて行くみちる。いいところ見せたいな……
みちるがレジに向かおうとしているのを見計らってカゴに手を掛けると、「俺が払う」と言った。
ちゃんと自分で払おうとしてた訳だし、マジでいい子。
しかも、しつこいがマジで可愛いし。
みちると手を繋ながら、みちるの部屋に向かう。人生で一番幸せだよ。
「あ、ここ、ここ!!あたしの家!!
部屋汚いからびっくりしないでね?」
みちるがそう言いながら指を指した先には結構新しいアパートがあった。カチャリと音をたてて鍵を開けると一見小綺麗な部屋に見えるが………、
ペットショップを思い出してしまうような匂いがする。玄関を開けるとすぐに台所があるんだけど、その隅っこに大量のハムスターのゲージが置かれているんだよ。
「ハムスター好きなの?」
だって、ハムスターゲージだけで10個近くあるんだよ?動物大好きっ子だろ!!
「うん!動物全般大好きだよ。
ごめんね。ゲージ有りすぎて引いたでしよ?
ほら、一匹、一匹分けてないと共食いするんだよね……。この子」
共食いとかは置いといて……
動物好きの人に悪い人は居ないって、姉ちゃんが言ってたし、みちるちゃんも優しい子なんだろうな。
「だよな。共食いする!!俺も動物好きだから大丈夫だよ!引いたりしないって。むしろ、家にもハムスター居るし!!」
動物好きという共通点も嬉しい!
「そうなんだ?優斗君もハムスター飼ってるんだ!可愛いよね!!あたし本当は犬飼いたいんだけど、このアパートペット禁止なんだよねー!!」
ちょっと!ペット禁止なのにこの大量のハムスターゲージはヤバいんじゃ?
「そうなんだ?犬可愛いよね」
そう言うと、みちるの顔が自然な笑顔になった。
「あ、中入ろうか」
そう言われ、部屋の中に入るとピンク布団にカーテンとやたらピンク一色の部屋があった。
なんだろう。 綺麗って言えば綺麗なんだけど……、襖の開いたままの押し入れの中に大量の服が見える。それに、テーブルの下に重ねられた大量の雑誌。
テーブルの上に置かれた大量のメイク用品に大量のマニュキア。
どれも半端ない量だと思う。
ちなみに、雑誌と服は今にも雪崩が起きそうな状態だ。
俺はどっちかと言えば、部屋は隅々まで綺麗にしてないと気が済まないけど……、
むしろ、シンプルなモノが好きだけど……、
みちるちゃんの部屋ならば全然オッケイ!!!問題無し!!
そんな事を思いながらテーブルの横に座り、コンビニの袋からお酒やお菓子を取り出した。ただ………
テーブルの上には物が溢れかえっていて、飲み物を置くスペースすら無い。仕方が無いから食べ物と飲み物を床に直接置く事になった。
「かんぱーい」
部屋に入ってからみちるのテンションは高くなり、どんどん酒を開けて飲んでいく。
お酒好きなのかな? なんて思っていると、みちるが酒を開けて俺に押し付けてきた。
「優斗君も飲もうよ~」
「いや、俺、お酒苦手なので…」
そう断るとみちるは唇を尖らせた。
「なにー?せっかく楽しく飲もうとしてるのに、もー!付き合ってよ!!」
もう出来上がっているのか、だだをこねるみちるの仕草と表情が可愛い。いや、可愛いというよりやたらフェロモンが出まくっている感じがしていやらしい。
やばい。やばいよ?
この酔っ払い。
みちるはビールを手に持つとニコニコしながら、俺に近付いて来た。
距離近っ!
誘ってるだろ、これ。
で、でも、無理。
初めてだし、何より好きな人は大事にしたいし。うー悩ましい。
「優斗ーー!!」
「は、はい?」
「お前は、私が頑張って作った酒が飲めないのかー?」
えっ……
その右手に持っているビールはみちるさんが作ったんですか?
な、訳無いですよね……
「あ、いえ。飲みます!」
そう言って、ビールに口を付けると一気に飲み干した。
どうなってるんだ?
男女の出会いって、こんな感じなのか。
みちるは俺がビールを飲んだのがよっぽど嬉しかったのか、凄まじく機嫌がいい。
はっきり言おう……
多分、今俺はかなりたちの悪い酔っ払いに絡まれている状態だ。だが、相手がみちるだから幸せ。
「さー、もっと飲んで!飲んで!
このビール。頑張って作ったんだよ?
大変だったんだから」
そんな事を言いながら、一気に三本のビールを開けるみちる。
って、何?
みちるって、まじでビールを作る会社で働いてるとか?な訳無いよな。
フリーターって言ってたし。
あー、俺が酒に強ければいいんだけど、あんまり飲み過ぎると寝てしまう体質なんだよな。こんな楽しい時間に寝てしまったら、最悪だからもう飲みたくない。
「あの…」
「ん?どうしたの?」
「お酒沢山飲みたいけど、俺って飲み過ぎると寝てしまう体質なんですよ。
せっかく楽しいのに、寝てしまうと勿体無いから少しずつ飲みます」
こんな事言って、みちるは怒ったりしないかな。
つまらない奴だと思われるのは嫌だな。
「なんだ!そうなんだ。
確かに優斗君が寝たら寂しいから、ゆっくり飲んでね」
顔は真っ赤だけど、真顔でそう言ってくれるみちるに優しさを感じた。でも、喋ったり酒を飲んだりを繰り返しているうちにみちるの口数が減っていくのを感じる。
何だろう……
俺と喋るのつまんないのかな……
そう思って落ち込んでいると、みちるがその場を立ち上がった。
「お風呂入ってくる」
それだけ言うと、ヨロヨロ歩きながらバスルームに向かうみちる。
えっ……
何故に風呂!?
どういう事なのか誰か教えて下さい。
結局、返事が出来ないまま部屋に取り残されてしまった。みちるが居なくなると、静かな室内にハムスターが走る音だけが響き渡る。
カラカラ
カラカラカラ
部屋に居るのも緊張してしまうだけだから、台所に移動してハムスターが走る姿をただただ眺めた。しかし凄いな。
ほぼ全種類のハムスターが勢揃いしている。
こんだけ居ると掃除するだけでも大変そうなのに大切にしてるんだな。
みちるって、ちょっと変わった子だけど優しい子だな。ハムスターゲージの横に無造作に置かれたひまわりのタネを手に取りハムスターに食べさせているとガチャリと音がして後ろを振り向いた。
ちょっ!!
そこにはバスタオル一枚を身体に巻き付けたみちるが立っている。ヤバい。緊張で死にそうだ。とりあえず視線を外しハムスターを見つめた。
「あ、あの……。服」
頭の中はさっき見たみちるの姿でいっぱいいっぱいだ。
「服?」
服?
って、服の意味が分からない訳じゃ無いだろ。
とりあえず服を着てよ!
口から胃が飛び出そうなくらい緊張してしまうし……、反応してしまう。
「ふ、服…、着て下さい…」
あー、これじゃ男女の立場が逆だよ。逆。
「えー、バスタオル巻いてるんだからいーじゃん」
「良くないです!!」
彼氏でも無い男の前でその姿はNGだろぅぅぅ!!!
みちるは俺の言葉を聞こえないふりしながら、俺の隣にくっついて来た。
なんか、クスクス笑ってるし__
俺、からかわれてるのか?
そう思っていたら、みちるの右手が俺の左手に被さった。
ドキドキして…
恥ずかしくて……
嬉しい。
でも、何で、こんな事するんだろう?
そんな事を考えながらみちるの顔に視線を移した。
!!!
目を潤ませながらこっち見てるし。
何て言うか、表情がエロい。エロイです。
「ねー。一緒寝よう。もう、眠い!!!」
だだをこねるように、そう言うみちる。ヤバい。一瞬頷きそうになった。
こんな状況で眠れそうには無いけど……。
「あ、確かに眠いですね。
俺、床に寝るんでみちるさんは布団に寝て下さい」
正直一緒に寝たいけど、それはそれで拷問だ……、なんて考えていたら。
「優斗君…。あたしの事嫌い?」
悲しそうな表情でそう聞いて来るみちる。
ごめんなさい……。言っている意味が分からないんですが?どういう事ですか?
誰か通訳してよ。マジで。
「嫌いじゃないですよ。……むしろ、好きです……」
何で告白してんだ。俺。
あ、でも、告白出来て嬉しいかも。
「本当に好き?」
「はい、好きです」
「嬉しー。でもさ、おかしいよね?」
え!?俺、なんがおかしいの?
「だってさ、好きなんだったら一緒に寝てくれてもいいのに……」
えーーー!?
好きだったら一緒に寝るの?
普通そうなの?
__な訳ないでしょ。
みちるちゃんて…、やっぱりちょっと変わった子なのかな?
えと、そういうのは普通付き合ってからだよね。でも、こんな事を言って来るって事は俺の事嫌いじゃないんだよな……?
からかわれて無いとすればだけど。
「あの、俺と付き合って貰えますか?」
何か、会ってすぐに告白って言うのも違和感あるけど、彼女欲しいし、みちるの事好きだし___
みちるの方を見ると、めちゃくちゃ嬉しそうな表情を浮かべている。
「優斗君。あたしの事好き?」
でも、疑っているかのような口調でそう呟くみちるに違和感を感じた。だってさ、好きじゃないと告白なんてしないよね?普通そうだよね?
「好きだから、告白した」
そう言うと、みちるは一瞬だけ幸せそうな表情を浮かべ、悲しそうな表情になった。
「嬉しい……。でも、付き合うんだったら優斗君に言わないといけない事が有るんだ……」
嬉しいって事は、付き合って貰えるのかな?
でも、言わないといけない事って何だろう?
それが、気になって仕方がない。
「言わないといけない事って、何?」
そう言った瞬間、みちるの口角が一瞬だけつり上がった感じがした。そして、戸惑ったような表情を浮かべながらゆっくりと口を開く。
「あのね……、あたし男性恐怖症なの。
と、いうか人間自体が怖い」
今にも泣きそうな表情でそう話すみちるにちょっと同情に似た気持ちを持ってしまった。
分かるんだよ__
みちるの気持ちが痛い程に分かってしまう。
人間なんて自分勝手で、すぐ人を裏切って、人を傷付ける。俺も人が怖いんだ。
でも、独りで居る事はもっと怖くて、先が見えなくて誰かに寄り添っていたいと思う。
温もりが欲しくて、欲しくて溜まらないんだ。
信頼出来る誰かが欲しいんだ……
だから、思ってしまう。みちるが俺の信用出来る人になってくれたらいいな……って……。ううん。
みちるが俺の運命の人だったらいいのにな。って心底願う。
「優斗君…」
「ん?」
「あたしね、前の彼氏に裏切られたんだ。
あたしは凄く好きだったんだけど、向こうは遊びだったみたい……。
あたし、バカだよね……」
透明な涙をボロボロと流しながら、今にも消え入りそうな声で俺に悩みを打ち明けてくれたみちるを心から幸せにしてあげたいと思ったんだ。
「俺は絶対にみちるの事裏切らないし、幸せにしたいと思う。ううん、一生幸せにするから……」
そう話すと、みちるは俺の首にしがみつくように手を回して来た。みちるの手が暖かくて、その温もりが俺を必要としてくれている気がして凄く嬉しい。
本気でみちるを大切にしたい。再度、強く、強く、そう願った瞬間、みちるの冷たい唇が俺の唇に重なった。
彼女が出来た事が嬉しくて。
守るべき人が出来た事が嬉しくて。
一緒に居てくれる人が出来た事が嬉しくて、今まで生きてきた中で一番幸せだ。
ぶっちゃけさぁ……。俺は自分の人生を諦めていたんだ。
小さな頃から色々あって孤独だったし、モテないし、仕事も辞めたばかりだし__
唯一自慢出来る事って言ったらさ、少ないけど信用出来る友達が居るくらい?
でも、さ。きっとそれはこの先に沢山幸せが有るからなんだよな?
みちるの為なら何でもしてあげたい。
みちるも俺と一緒で、色々苦労しているみたいだし、この子を守れるのは俺しか居ないんだ。
沢山働いて、愛して、楽させてあげたい。
そう考えただけで、今までどうでも良かった人生が楽しくなってくる。
幸せMAXの状態に浸っていると、みちるが手をぎゅっと握ってくれて、引っ張られるように布団のそばに移動した。
一瞬だけ視界がグラッと揺れて、身体が布団に崩れ落ちる。その瞬間見たみちるは、微かに笑っていて、例えるなら。そう。
小悪魔みたいな表情をしていたんだ__
その瞳が吸い込まれるようなどす黒さを醸し出していた事なんて、気にしなかった。それくらい一瞬にして、溺れてしまったんだ。
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