第5話 始まり

彼が仕事を辞めた。

でも、また新しい仕事をしたらいい。

でも、そんな考えは甘い考えだったのかもしれない。


彼は思いもしない方向に動き始め、それは私の理解を超える方向に動き出す。

彼は仕事を辞めてから、私の送り迎えをするようになった。


それは、徐々にエスカレートしていき、仕事中まで監視するかのようにガラス越しに私を見ている彼は恐怖以外の何者でもない。


「浮気するかも知れないから、見張っている」


有り得ない事を想像してひたすら私に付きまとう彼。


そして__


仕事の話であろうが、目を合わせただけであろうが、彼以外の男に接触すると暴力を振るわれるようになっていった。


もう、ここまで来てしまったのならば………。

彼と別れたい。


彼にいつ殴られるのか、怯え。

彼の機嫌がいつ悪くなるのか、怯え。

まともな生活すら出来ず、怯え、怯え、怯え。


でもさ、彼に別れ話なんてしたら殴られるんだ……


怖い。怖い。怖い。

これが、今現在の私の現実。


願う事は、ひとつだけ。

彼が、私を殴らないでいてくれたら、私は頑張れそうな気がします………。

でも、それが叶わないなら………。


彼から逃げるしかない。


私はスヤスヤと眠る彼を確認すると布団から出てトイレに行ったふりをして彼の様子を伺う。追いかけて来る気配は無い。

彼は、本当に爆睡しているらしい。


今だ。

今しかない。

今なら、彼から逃げる事が出来る………。

でも…………、バレたらどうなる?


ガタガタと震える手で玄関のドアを音を立てないように開けると靴を手に持ったまま、アパートから脱出した。


もし、彼が起きて…………、

私が居ない事に気付いたら………。

追いかけて来て、捕まって、殴られるだろう。


怖い__

けど、このまま彼と一緒に暮らし続けるのはもっと怖い。

 

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依存愛 十枝 日花凛(とえだひかり) @osousama

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