霊子破壊爆弾技術奪取作戦

第11話

「全員そろったね。それでは、今回の作戦を説明する。

 今回の作戦発案者にして、総指揮を執るヒタチだ。よろしく頼むよ。」


 クラウンブレッド本部ビル78階。

 ヒタチが管理するフリールームに大あくびをしたグレイニンジャと半泣きの廻燐珠鬼がやってきたのは、16時ピッタリのことだった。

 どうせ遅刻者も多いだろうとタカを括ってギリギリまで廻燐珠鬼と戯れていたきざむだが、想像以上に今回の参加者はやる気に満ちているらしい。


 きざむ達が席に着く間もなく話を始めたヒタチの雰囲気からして、そうとう周囲に圧をかけている様子。

 パーソナルスペースという名の俺に関わるな距離5mを維持した誰もいない席を目指しつつ、ぱっと参加者を確認する。


 打翼怪人バルコンドール

 微塵怪人フィッグラント

 美鉄怪人エルシャントーレ


 知っている顔のB級だけで3人。

 その周囲には、知っている顔のC級D級がずらりと派閥を形成している。

 きざむが知らない顔は、派閥の周りか最前列に規則正しく並んでいるものがいくつか。


 顔を向ける度に視線が通う。

 最も、火花散る熱線ではあるのだが。

 

 少なくとも、B級の顔ぶれはあまり評判がよろしくない面々で、できることならば一緒に仕事をしたい面子ではない。

 そもそも押し付けられなければ部下すら持たないきざむが、派閥なんて物を作ってお山の大将気取っている連中だと吐き捨てる程に、彼ら彼女らと性質が真逆だという話もあるのだが。

 

「まず、今回の作戦の目的だが、これは国家プロジェクト級の超重要機密である研究成果の奪取だ。

 手にするだけで、比喩でもなんでもなく、一国が傾くレベルの話であり、霊力社会において致命に一撃になる発明。

 奪取に成功すれば、クラウンブレッドが世界の覇権を取るといっても過言ではない程の重要任務であることを、皆熟知してほしい。」


 ざわめき。

 

 あまりにも荒唐無稽で大きすぎる話だというのに、その場にいる誰もがその話をふかしている、と断言するには至らない程に、ヒタチの言葉は深い確信があるように感じられた。


 ――――にしては、戦力が少ない気もするが。


 きざむも根幹部分が重要なことまでは否定しないが、そんな疑問を持った。

 この場にいるのは、A級1人、B級4人。

 そこまでの重要度だと言うのであれば極端な話、本部の最終防衛戦力である1人のA級を残して、他の戦力は全員参加してもいいはずだ。


「奪取する技術の研究コードは、J-SHOCK。

 ほぼ完成状態にあり、一度だけ使用実験をした後に研究施設は閉鎖し、技術情報は我々では手が届かない場所に封印されてしまうだろう。

 政府筋に潜入している工作員の情報によれば、実験までの期限は約2週間。

 研究員、研究データ、現物。最悪どれか1つでも構わないから、なるべく多くの情報を確保するんだ。」

 

 研究員

 国家プロジェクト級ともなれば、機密保持に記憶消去系のトラップが仕掛けられている可能性がある。人権問題でうるさい今日、そう易々と仕込めるとは思えないが、本人の意思による自殺もあり得る。

 第一目標にするには安定はしないだろう。

 

 研究データ

 紙面に電子媒体。それに加えて、今日では霊力媒体なんて物が追加されている。それぞれに長所と短所があるがゆえに、その形式はランダムであるべきだというのが、現代の考え方だ。紙面ならば純粋なる暴力で、電子ならばネットワークを構築する為に隠密で、霊力ならば数がいない専用の人材を現地に送り届けなくてはならない。

 これもまた、運が良ければの部類に当たる。


 現物

 一番現実的で、一番単純な暴力で手には入るが、これ単品では一番研究員が頭を悩ますことになる。

 悲しいかな、現物確保はほとんど保険に近く、結局前者2つを持ってくることが技術奪取としてはほぼ前提条件であろう。


「工作員からの情報で、研究所は候補が3つまで絞り込めている。

 どれも秘密研究所で、詳細位置はわからないから現地で調査してもらう必要があるんだけどね。」

 

 生産ブロック3の新潟南西部に隠されている、合馬大学が所有している地下研究所。

 最も情報が広範囲かつ中身が曖昧な場所に、空中からの高速飛行で捜索できる、打翼怪人バルコンドール。


 居住ブロック11の仙台北部にある、国立の研究所群を隠れ蓑にしている研究室。

 最も公的戦力が充実していて本命の研究室を見つけにくい場所に、隠密潜入に特化した戦力である、微塵怪人フィッグラント。

 

 観光ブロック9の飛騨山脈内にある、保養施設に偽装されていると目される研究所。

 最も人が多く研究員との接触が容易そうな場所に、一般潜入に慣れていて体を利用することができる、美鉄怪人エルシャントーレ。

 

 

 そんなヒタチの説明の最中、きざむはうっつらこっつらと舟を漕ぎ始めていた。

 頬杖に体重を預けているが、それも無駄な抵抗とばかりに右に左に前にとあちらこちらに振れまくっている。


「おいおいヒタチさんよぉ!ここに呼ばれたってのに、役割がない無能な上級怪人サマがいるじゃねえかよ!」


 何やらセンスのない発言が聞こえてきたので、腕を枕・・・に本格的に眠ることにしたきざむ。

 

「グレイニンジャのことを言いたいんだろうけど、彼はあくまでも予備戦力。誰かが本命の研究室を発見した時、現場に急行するジョーカーだ。決して、役割が無い訳じゃないよ。」

「いらねえんだよ、そんなカードはよお!

 俺たちの力だけで、こんな任務完遂できるってんだ!」

「さっきも言っただろう。この任務は、組織の未来に関わる重要任務だと。

 君たちの能力を信頼していない訳じゃない。

 でもね、フォーカードで勝負しても、唐突に出てきたストレートフラッシュに踏みつぶされることもある。可能ならファイブカードなんて最強手を用意したい。」


 ――――騒いでいるのはバルコンドールだろうか、と遠くなっていく聴覚が捉えた音から推測する。

 普通飛行系の変身をするには、細見だの軽量だのとスマートな形になっていく物だ。

 しかし、この馬鹿は1回の羽ばたく力を上げれば空を飛べるだろうなんて頭の悪いことを本気で信じた結果、空中で10m近く乱高下しては時々墜落するゴリマッチョ、通称アホウドリが生まれた訳だ。

 霊力が強い人間は多かれ少なかれ頭がおかしいとはよく言うが、それが悪い方に突き抜けた良い?悪い?例だ。

 

「大体、こいつがジョーカーってのもおかしいんだよ。

 こいつはA級とか抜かしてるくせに、ただ霊力が馬鹿みたいに多いだけの出来の棒じゃねえか!」


 ドスドスと見苦しい足音を立てながら、バルコンドールはグレイニンジャの前に立つ。

 頬杖を付いたグレイニンジャの頭の布に手を伸ばし、ろくに霊力が籠っていないことに驚く。

 バルコンドールは激昂しながら、グレイニンジャを自分の目線まで持ち上げて、その目にやる気がないことを察してさらに怒りが増す。


「なんだよ………………俺は防御する価値すらねえってか?!

 そうだよなぁ!お前は攻撃受けるだけ受けて、最後に全部直せばいいんだもんなぁ!!!

 まったく、戦いってもんを1㎜も分かってねえなぁ!棒立怪人さんよ!!!なんとか言ってみたらどうなんだ!!!

 殴り合いで1回でも勝ったら、認識を改めてやってもいいんだぜ!」


 バルコンドールの蛮行に隣で座っていた廻燐珠鬼が立ち上がろうとするが、グレイニンジャが手を振って軽く制する。

 

 何やら視線を感じたきざむ。

 目を開けると、どうしたもんかという呆れたような、諦観ような、悲しい目をしたヒタチとアイコンタクトが通じてしまった。

 フリールームの後ろの棚の上で寝仏を決め込んでいるきざむが今更出ていく気がないことは薄々気が付いてはいるのだろう。

 

 しかし、そもそもバルコンドールが本気で攻撃する気はないと高を括って、ヒタチに面倒事を丸投げする気というところまでは読めていなかった様子。

 しかし、そもそもアイコンタクトと言っても見えているのはきざむ側のみで、ヒタチ側はどうせここだろうと高を括って視線を送っているだけだったりする。


 そんな攻防とも呼べない押し付け合いが発生せず、ヒタチが折れた。


「バルコンドール。君の要求は、仮に君の担当が本命でもグレイニンジャが援軍に来ない、ってところでいいかい?」

「まあ、落としどころだな。」


 思わず鼻で笑ってしまったきざむ。

 

「その他詳細はデータで送信する。

 皆の成功を祈っているよ。」


 ヒタチのそんな一言で、その場は解散となった。

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