第2話
かつて少子化を極めたこの国…………というより、世界中の大抵の国は、今はもう人口爆発の極致にある。
人口子宮技術発達とその周辺の法律整備により、国家の管理の下で出生率は常に2.1を維持する様になった。
その他自動操縦技術も発展して生活必需品の生産に人手は必要無くなったが故に、一部の才覚溢れる人間以外は趣味に没頭できる自由な環境が整った。
そういった要因の”おかげ”、というべきなのか、その”せい”、と表現すべきなのかは、各々の主観によって変わるだろう。
何が起きたかと言えば、生まれついての異能力者が各地で発見される様になった。
それが世界の人々に周知された頃、今度は異端の烙印を恐れて潜伏していた、古くから研究を続けて来たと主張する魔法使いやら、超能力者やらが表舞台に上がってきた。
どうやら凡例が少なかったが故に人類は異能の力を理解できていなかっただけで、元々世界にはそういう法則があったらしい。流石人類と言うべきか、『霊力』と称されたそれを短期間で体系化し、『霊装』と呼ばれる心を物質化させることにより、銃弾が飛び交う戦場においても主力として扱えるところまで発展させた。
前世紀からしたら超常であり、使用者が好き放題できる様に見えるこれも、万能ではない。
本質は”魂”の具現化。
その人間の在り方を外に出しているだけ。
例を出すなら、その人間が「他人を攻撃したいけど、自分は傷付きたくない」なんて甘えた考えが染み付いてしまっていると、棘が表面にびっしり付いた盾が顕現する、といった話だ。
しかも、余程の鍛錬と才能がなければ、手の平よりも少し大きい程度の物しか作れない。
もちろん、『燃えるような心』と自分の魂を定義できれば、機械の補助により燃料なしでの火炎放射、なんて芸当も可能だ。
さて、才能と努力さえあれば誰でも異能を行使できる。そんな状況で、平和は訪れなかった。
最初の動乱は、国が主導していた。
異能力者で軍隊を編成し、それの出来に増長したのか他国へと侵略を開始する。
しかし、そもそもこれは万人に宿る力。それを補助する機械の研究と、教育し運用する技術の研鑽に差はあれど、元の条件は同じなのだ。容易く袋叩きに遭い、そういった国は消えていった。
次に異能が悪用されたのは、テロや組織犯罪によるものだった。
むしろ、こちらの方が問題だった。
魂という物は、端的に表せば記憶が変移した物だ。
記憶を得る方法といえば、日々の経験や学習。そして、洗脳。
脳に偽りの記憶を流し続ければそれはいずれ魂に刻み込まれ定着し、元の記憶の量を上回れば対象は完全に別人となる。
悪の組織に都合よく調整された洗脳兵士達には表の社会の戦力では苦戦を強いられた。
全ての記憶を都合よく弄られ、霊力そのものが戦闘用に改造された量産品相手ですら、温かい日常が待っている軍隊の霊力では歯が立たなかったからだ。
かつて平和の国と言われたこの日本ですら、夜出歩くのは誘拐してくれと言っている様なもの、とまで言われている。
そんな時、ある1人の科学者が1つの提言を行った。
「我々は、人道を踏み外さない範囲で、強力な霊力を持った戦士を生み出さなくてはならない。
その手段として、子供に対して自然な形で『
大人よりも優れた感受性を持つ少年少女らによって、正義の元に力を自発的に振るってもらう。」
この提言は、正鵠を射ていた。
幸いにもこの国は、20世紀後半から100年近くヒーローについて語ってきたヒーロー大国で、それこそヒーローという概念に対して世界のトップに噛みつけるのは日本くらいな物だろう。ヒーローを育てる為の教材は、無数にあった。
この提言から年月が経ち。
彼らは、目覚めた。
国中あちこちで誕生した、覆面の戦士やら、魔法少女やら。
幼い頃から正義とは、平和とは、と問われ続けた彼ら彼女らは、自分の意志で悪を滅する。
目的を強く刻み込まれた彼らの霊力は、戦う為だけの存在を優に上回る。
ようやく、世界に光明が差し始めた。
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