第1話 親と子

良く母親は自分の親の話をして聞かせていた。

「お母さんがやりたいこととかはすぐ否定してやらせてくれない」

「それにーー」


と一呼吸置いてこういう。

「父は気に入らなければ何かにつけては鉄拳飛ばすし母は何かにつけては女の子なんだからと理想とかばかり押し付けるから嫌なんだよね」


だからなのか物心ついた頃から母親と母方の祖父母があまり仲良くいる姿を見たことがなかったような気がする。

ああ言えばこう言うでお互いの主張をして分かり合えなくて「だからこの娘(こ)は」「だからこの親は」とへいこうせんをたどる。


それは私から見たら父親と母親の夫婦関係にそれに酷似していた。


「おっさん聞いているのか」

「……」

自分の言いたいことを相手に伝える時に一方的に伝えたくて言う母親に黙って言わせておけばいつかは収まるだろうの父親。

「聞いてんのかと言ってんだけどきいてねーの?」

そこからまた父親の方をつかみ

「あんたがそんなんだからだめなんだよちゃんと話を聞いてろよ」

とややキレ気味につっかかる。


堪忍の緒がキレる父親は「んじゃあいい」と家を出て頭を冷やしにパチンコへ行く。

すると父親の悪い所や嫌いなところを聞かされるのが自分たち子供の役目だった。


「おっさんがああなったのはじじいとばばあ(祖父母、母親から見たら義両親)のせいで生活費稼ぐ以外脳がないんだから家に帰ってこなきゃいいのに」

といった話から母親自身の両親や近親者のいわゆる悪口など聞かされて育ってきた。

もちろん上記のようなやり取りに加えての取っ組み合いの喧嘩やら「どうせお母さんが○ねばいいんだろ」といった発言までいわゆる面前DVという形で見る聞くは当たり前であった。


それから、

……それから?


おそらく普通の家庭ではあるような愛情のキャッチボールみたいなものや褒められるという生きていく上で形成していく大切な部分は見事にされてこなかったと思う。


褒めてもらいたくて好きな絵を描いて見せたとして

「へぇ、頭デカイね。バランスよく描けないの?」

と言った具合に褒められたり成功体験をして嬉しかったという記憶がほとんどない。

不思議な程に。


父親に関しては自分以外の人間には無頓着であったので、親や子供たちでさえあまり関心を示さなかった人である。


そのためか、自分には家族が何かわからない。

父親や母親とその両親、つまるところ自分から見た両親と祖父母たちを見ていると親が親なら子も子という印象以外の何者でもなかった。


そんな父親と母親から見たら生まれてきた自分が生きていて最も聞くのが苦痛な言葉がはは親から発せられる

「お前は父親そっくりだよ、行動やその口癖」

何かにつけて母親が気に食わない行動や話し方をする度に言われ自分と同じだと

「こういうとこばかり似やがってやだやだ」

と嫌味を言う。


自分は、そうなりたくないと思っていても祖父母までの誰かに何かしら似るのを思うと今日も絶望するのだった。

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不誠実な果実と無益な花 ハルヤマチコ @rk2589

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