ボイスメッセージ

柳 一葉

ボイスメッセージ

「ピコンっ」

 朝起きるアラーム前に一件メッセージが届いた。

「ん〜ねっむい」

 そのメッセージを無視してたらまた

「ピコンっ」

 と俺へと通知が届く。

「まだ寝かせてくれよ」と思ったが、結局アラームが鳴る。俺はスマホから鳴り響くアラームを止めて、メッセージを確認した。

 そこには「奈々」と表記されていた。

 奈々は、俺と同じ大学のサークルのメンバーで「彼女」だ。

 俺はメッセージを一読する。

「おはよう!今日のデート張り切っちゃって起きちゃった」と、そしてもう一つは、ボイスメッセージだった。

「おはよう!今日も大好きだよ」と、五秒程の内容だった。

 俺はまだ寝ぼけてたが、奈々からのこのメッセージをもう一回聞き直した。まだ六時だもう少し寝たい所だが、朝の生理現象との罪悪感でやはり、起きる事にした。

 朝の習慣化してるストレッチを軽くして、朝食の食パンをトースターでゆっくり、こんがりに焼いて、コーヒーをその間に淹れる。こんがりに焼けた食パンの上をマーガリンが泳いでいく。一口かじり

「ん〜今日のトーストも最高」と、呟きブラックコーヒーで若干甘めのトーストを体内へと流し込む。

「ふぅ、やっぱりこの時間は至高で最高だ」もう一口、もう二口食べては飲んで流し込む。

 あ、確かこの前、奈々が来た時一緒に食べ置きしてた苺があったはず。

 俺は冷蔵庫へと足を進めて確認する。野菜室に四粒程残ってた。以前来た時は確か十五個位無かったっけなと少し笑った。食べる事が大好きな奈々らしいな。そんな彼女と今日はデートだ。苺を二粒摘んで食器を片付けた。

 俺はソファに沈み、テレビを付けリモコンで朝のニュースのチャンネルへと変えた。そしたら、奈々の住む町で通り魔の殺傷事件があったと無機質にアナウンサーは読み上げる。

 俺は奈々に連絡を入れた。

「おはよう、今ニュースで知ったけど、奈々今日のデート大丈夫か?俺がいつも通り送り迎えはするけど、それでも無理だったら素直に断ってもいいから」そう奈々へとメッセージを送った。

「ピコンっ」

「ゆうすけ優しいね、そうしてくれると安心する」それと

「いつもありがとう」とまたボイスメッセージが送られてきた。

 奈々は昔から、付き合った時からこうして気まぐれにボイスメッセージを付け足してくる。そんな彼女が愛おしいかった。電話で話す時ははっきりと喋るが、こういう時は甘えたなその声がとても可愛かった。とりあえず奈々が大丈夫と言うのなら、今日はデートだ。

 今日は早めに送って帰ろう。俺は少し緊張した、夕方の五時までに奈々を帰すと言うミッションが課せられた。

 奈々の家、マンションの三階へと足を急ぐ。

 チャイムを鳴らしドアを開けて、奈々は俺に合うやいなで抱きついて頬にキスした。

「ゆうすけ、ありがとう」と言った。

 俺も軽く奈々の口へとキスをした。もう少し待ってって言われたから、俺は靴を脱いで部屋へとお邪魔する。前来た時より少し服とかが散らかってるなと思ってたら、奈々が

「あ〜部屋汚いって思ったでしょ?今日何着てくかとても悩んでたんだからね」

 とプリプリしてた。結局は秋の季節柄緩めのニットにプリーツスカート、足元はローファーを合わせていた。とても可愛い女の子だ、柔らかな栗色の髪色も素敵だ。

 そんなこんなで、今の時刻は十時だ。奈々が以前から行きたがってた、水族館へとノイズ混じりのラジオが鳴る中古車で移動した。

 

「大人二枚で」とスタッフへと声を掛けて料金を払った。

「いいの〜?私も自分の分は出すよ」と言ったが

「俺に払わせて」と奈々へと伝えた

「じゃ、水族館を見終えたらカフェに行かない?せめてコーヒー代だけでも出させて、ねっお願いっ」

 奈々は俺の姿を拝むかの様に手を合わせた。

「分かった、じゃあ一杯奢ってもらおうかな」

「ゆうすけありがとう」

 と合わせていた手を俺へと向けて握りあい水族館を巡った。

 俺が所属しているサークルはカメラ部だ。最初は緩い気持ちで入ったが、奈々とそこのサークルの飲み会で意気投合して、知り合いから一気に恋人へと関係は移った。

「奈々」

 そう、不意に俺は呼んでスマホのシャッターを切る。撮った写真を見つめるが、本当に奈々は、被写体、モデルとしての素質があるんだなと思った。

「ゆうすけ」

 呼ばれて振り向くと彼女も同じ様にインスタントカメラで撮った。

「へぇインスタントの持ってたんだね」

「スマホだったらすぐ削除出来るけど、一度焼いたフィルムはそう消せないからね。これからのデートの時は、これを使おうかと思ってるんだ」

 彼女が今の俺にはフラッシュを焚いた幻にしか見えない。この水族館と言う場所。薄暗くて、カラフルな魚達が遊々泳いでいる。俺も奈々もどこか現実世界に居る人間とは思えない程、互いに見惚れていた。

 水族館に二時間程滞在してた。車に乗り込み道中奈々は車内で

「チョウチンアンコウに誘惑されて、踊らされて一度は食べられてみたい」

「タカアシガニの足の長さ意味わかんない」

 などと喋っていて俺はずっと笑ってた。

 車で十五分するかしないかの少し田舎道を走って、古民家カフェへと着いた。

「すっごいね」

「確かに凄い、でっかい大黒柱こんなの見た事ないよ」

 と店員に聞こえる。そんな大きな声で俺たちは声を出してた。

 案内されて、メニュー表を見る

「ゆうすけはコーヒーでしょ?」

「うん、そうだね。待ってコーヒーでも此処色んな種類あるよ」

「五種類もあるね。どの子選ぶの?」

「ん〜シンプルにブラックか?いや、自家製も気になるんだよな」

「じゃあさ、じゃんけんしない?私が勝ったらブラック。ゆうすけが勝ったら自家製オリジナルでどう」

「その作戦乗った」

 まるで小学生みたいだなと思ったけど、奈々のこういうの所にも惹かれてるんだなと実感した。

「いくよー!じゃんけん」

「パー」

「チョキ」

「あああ負けた〜」

「奈々が何で悔しがるんだよ。俺のコーヒー決めだぞ」俺は笑った。

「だってそれでも勝負は勝負じゃん。クソ〜」

「まあオリジナルを頼むよ。ありがとうございます奈々さん」

 俺は小馬鹿にして奈々へそう告げた。

「奈々はどうするの?オレンジジュース?」

「え〜今日はホットカフェラテにしようかな。あ!ケーキも頼みたい!」

「じゃあ俺もケーキ頼もうかな」

「すみません」

 俺は店員に注文を頼んだ。それから十分程で俺たちの頼んだ四品がテーブルへと並んだ。

 俺は自家製オリジナルのコーヒーとモンブラン。奈々はホットカフェラテと苺のタルト。

 奈々はすかさず、写真を角度を微調節しながら撮ってた。

「相変わらず奈々は苺が好きだね」

「だって小さい頃からの大好物だもん」

 奈々はそう言ってスプーンでホットカフェラテ混ぜてる。苺のタルトを綺麗に小さな口へと運ぶ。

「ゆうすけは苺大丈夫なんだっけ?」

「うん、食べれるよ。なんなら今日この前奈々が置いていった苺食べてきたよ」

「そうだった、あの日結構な量持って行ったもんね」含み笑いしてまたタルトを食べる。

「じゃあさ、このタルト食べてみる?めちゃめちゃ美味しいよ〜」

「大丈夫だよ。美味しいなら尚更の事、奈々が食べなよ」

「え〜共有したいのに」

「それでもいいから、ねっ?」

「分かったよ。こんな美味しいのに」

「じゃあ俺のモンブラン食べる?」

「いや、だってゆうすけものすごくモンブラン好きじゃん」

「ほら、そういう事だよ」分かった?

 また他愛のない会話が続いていく。この時間が一番癒しだ。一時間と少しした頃に

「そろそろ帰る?」と俺が提案した。多分三〜四時位に奈々の家に着くかと逆算したけど、

「え〜まだゆうすけと一緒に居たい」いつも通り彼女が駄々をこねた。そう見兼ね店員が俺たちに

「ここから十分程歩いた山道に銀杏の木があるんですけど、今丁度見頃ですからいかがでしょうか」

 と、話かけてくれた。

「え!行きたいですっ。ね!ゆうすけ行こう」と奈々は子供の様にはしゃぎ椅子から離れた。俺もまあ一時間位ならいいかと思い、一緒に道中を隣同士歩いた。会計はまた此方に戻った際でいいからと、白髭が立派なこの店の主に言われたので甘えた。

 秋風がひゅるりと吹いて、奈々のプリーツスカートが綺麗にイチョウの葉と舞う。また俺たちは互いを撮りあった。店員が言ってた通り本当に見頃だった。一本道で脇を銀杏がズラリと並んでた。

「奈々写真撮るから何かポーズ取ってみて」

「え〜照れるな」

「いいからいいから、自然体でも大丈夫だよ」

「分かった」

 と、奈々はしゃがみこんだり、イチョウの葉でお面みたく顔に持ってきて、イタズラな笑みをこの画面一杯に写してくれた。

「じゃあゆうすけも」

 と言い、奈々がインスタントカメラで数枚撮ってくれた。

「あ〜現像が楽しみだな〜。帰ったらすぐにカメラ屋さんに持っていくね」

「俺にも何枚か頂戴」

「いいよ〜記念にフォトアルバム作りたいからそれも楽しみ」

 奈々はすごく少女の様に幼く笑ってた。

 いつの間にか一時間はすぐに過ぎていった。

 急いでカフェに戻ると、お店を閉める雰囲気になっていて、俺も奈々も急いだ。

「俺が払うから車で待ってて」

「え、でもコーヒー代…」

「それは後ででいいから」

「分かった。じゃあ待ってるね」

 俺は少し取り乱してた、早く奈々を送らないと。三千円出してお釣りを貰い

「いいスポット教えて下さってありがとうございました。お陰で楽しかったですし、コーヒーもケーキも美味しかったです。では、失礼します」

 そう伝え車に戻った。

「思ったより遅くなっちゃったね。ごめんね」

 奈々は、少し不貞腐れてる顔だった。

 奈々の家まで車を走らす。まあ、近くのコインパーキングから三分程で奈々の家はすぐだ。と思ったがやはり気が急く。気づけばラジオからノイズ混じりでガタがきてる音楽が夕方の五時を知らせてくれた。

 やはり、滞在し過ぎたか?まあいいか、奈々が不貞腐れてるが、コーヒー代は家に着いた時に貰うか。そう思い隣を見ると寝てた。奈々は目尻を少し赤くして寝てた。あと五分程で着くから奈々に声を掛けた。そしたら

「ごめん寝てた、運転ありがとうね」

 と、いつも通りの奈々がそこには居た。

「ううん、大丈夫だよ。気にしなくていいから」

「今日もゆうすけとのデートとても楽しかったよ。また写真現像したら渡すから待ってて」

 そう言われると共に近くのコインパーキングに着いた。持ってきた荷物など、忘れ物は無いかと確認した。車から降りると

「やっぱり都会の空気はまずいね」

 と奈々が欠伸をしながらそう呟く。

「さあ、帰ろう」と俺は言った。

 無事に奈々の家まで、奈々を送る事が出来て一安心。

「じゃ、今日はありがとう。俺のスマホの写真も印刷して今度渡すから」

 と帰りにまた行きと同じ様に奈々へとキスを残した。

「気をつけてね」

「お互い様」

 ドアをパタリと閉めて、エレベーターで一階へと降りる。大きなエントランスホールから外へ出る。さてと、パーキングエリアに停めた車を探して足を運ぶ


「グサッ」


「パリンっ」

「うわぁ最悪コップ割れちゃった。あ!そう言えば、ゆうすけにコーヒー代渡すの忘れてたわ、現像した写真とフォトアルバムを一緒に次会う時に渡そう〜楽しみだな」

 私はまた彼にボイスメッセージを送った


衝撃が背中の神経へと伝う、その瞬間俺は空を眺めた。奈々の言ってた通りだ

「うん、やっぱり都会の空気はまずいな」

「ピコンっ」

 俺はその場に倒れ込んで、最後の力を振り絞ってスマホの通知を見たら奈々だった。

 またボイスメッセージが届いてる、俺の最後の耳に残る声が、音が、彼女である奈々である事が救いだったのかもな。指が震えて中々画面をタップ出来ないが、ようやく愛しの「奈々」の声が聞こえ始めてきた。だめだ上手く聞き取れないが音量を上げてみると

「ゆうすけこれからもよろしくね!大好きだよ」

 また、次もいつも通り会えると満ち溢れてる声だった。

「奈々…ごめんなおれもあいし」

 この言葉はいくら経っても君には届かない。


「奈々ちゃん」

「あ!こーじくん無事に終わった?」玄関先で抱き合う。

「ああ、奈々ちゃんを送りと届けて安心してたから、後ろからすぐに刺したよ」

奈々は悠々とジッポを炊いてタバコに火を付ける

「ようやくゆうすけから離れられて嬉しいよ。ありがとうこーじくん」

奈々は同じサークルの先輩である水内康二と浮気をしていた。奈々は祐介の愛の言葉が少なく感じ、飲み会で康二に愚痴を言ってそれが今の関係へと繋がっている。

「ゆうすけに一応メッセージを不自然じゃないように送ったけど大丈夫だったかな?」

「まあ、大丈夫なんじゃない?今此処の町で起きてる通り魔事件に擦り付けようよ奈々ちゃん」

私は康二へタバコの煙を吹いて、その唇でキスをした。


「ピンポーン」

「ん?誰だろう、あ!宅配かな?」

ドアを開くとそこには死んだはずのゆうすけが、あのゆうすけが居た。背中から腰辺りは血染めで赤くなっていた。どうして、ここまで歩いて来れたの?

「な、何で」

「奈々、俺はお前が先輩と浮気してた事くらい知ってたさ。気まぐれのボイスメッセージ。さっきも俺に送ったよな、その時のメッセージ俺は油断していた先輩とお前が漏らしてた声を聞いてたさ」


【こーじくん!やったね ミッション大成功!】


「え?まってゆうすけ」


「グサッ」

俺は柔らかな彼女のお腹を刺した。

正面から俺はこう言った

「奈々、俺はお前が好きだった。愛してた」

俺も、もうじきに死ぬだろうが、大好きな奈々と死ねるなら本望だ。一緒に血染めで地獄へ落ち餓鬼の籍へと入ろう。それが報いだ。

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ボイスメッセージ 柳 一葉 @YanagiKazuha

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