イベントホール・決戦の舞台

 「おお、マキシマス!」


 非常口の扉を勢いよく開けたマックスに、今朝、ロビーで会った時のような挨拶を送るジェイソン。そして、


 「さあ、我を見よ!」


 ジェイソンは両手を広げて天を仰ぐような態勢。その視線の先にはカルロがいた。体を横にして、両手を胸の前で組み、宙に浮いている。床から二メートルほど高い。


 「お前に頼らずとも、私にも霊力が発現したぞ!私が呼び出した霊により、カルロは宙に浮いておる!」


 無論、ジェイソンにそんな力は無い。しかし、その目には恍惚とした自惚れ以上の、狂気のようなものが感じられた。


 「操られている……」


 マックスは呼吸を止め、霊視した。ジェイソンの両手が紐のような影に繋ぎ止められている。その紐は、宙を浮くカルロの体まで伸びていた。

 よくよく見ると、カルロの体も天井からつり下がる紐のような影と結ばれている。


 「まるで人形劇だな。あの影さえ断つことができればよいが、武器は……手持ちが無い。兄さん、紫のストールを借りるぞ!」


 兄の首に下がっているストールを引っぺがすと、細長い面に祈りの言葉を吹きかけた。ストールから、ほのかに光が放たれた。


 「悔い改めよ!」


 ストールを鞭のように振って、カルロから伸びる影の紐を全て断ち切った。


 カルロは、バタンッと音を立てて舞台上に落ちた。観覧席から「わっ……」と観衆の驚く声。


 その音に、ジェイソンもまた我に返った。

 「おや、トークショーの途中だと思ったが……」


 「兄さん、無事か」


 マックスは、生贄にされる前に兄を助け出せたことに安堵しつつ、その目はカルロから離さなかった。


 「カルロよ、正体を皆の前に曝すがよい、術使いめ!」


 カルロは、たったいまマックスの存在に気が付いた様子で、

 「おやおや、誰かと思えばマキシマスさん……」


 ゆっくりと立ち上がり、

 「何をしたかは知らんが、私たちのイベントを邪魔するとは、けしからんですぞ!」


 腕を伸ばして、指先から黒く細長い影を放出、マックスに襲いかかった。


 「破っ!」


 ストールを弧を描くように振り回し、飛んでくる糸を切り払った。


 「これは……!?」

 カルロは目を丸くした。その時、舞台の隅に置かれていたバッグから、会場を震わせるような声が響いた。

 

 ……——カルロよ、我らの狙いはイアソンではない!弟の方だ!


 カルロはマックスを凝視した。


 「マキシマス!まさか、あなたが本物の……」

 そう呟きつつ、その視線が一瞬、マックスから横にそれた。


 マックスは視線の動きを捉えたが、同時に背後から生者の気配を感じ取った。


 「マキシマスさん、大人しくするんだ!」

 ポーターの青年だった。


 「しまった……カルロに集中している間に!」

マックスは後ろから羽交い締めにされ、身動きを封じられてしまった。


 もがいて振り解こうするものの、青年の力に老体のマックスは及ばない。


 「くそ、離さんか!」


 「どうして邪魔をするんです!イベントを成功させなくては……」


 と、その時、


 「ゴンッ!」


 と鈍い音。ポーターはその場で崩れ落ちた。彼の背後にはジェイソンが立っていた。手に杖を握りしめている。


 「か、神のご加護を。こやつ、大丈夫かな……」


 「心配ない、魂は抜けていないよ。ナイスだ兄さん」


 「……ふん、弟がピンチとあっては、ぼんやりしている暇もない」


 「よく言うよ」

 マックスはニヤリと笑ってから、再び目をカルロに向けた。

 

 「お前は先ほど、私が本物か?と聞いたな。答えはノーだ」

 マックスは首を振って否定を示した。そして兄の傍に立ち、


 「二人そろって、本物の悪魔祓い師エクソシストだ」


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