第220話
椿side
4人家族の次男に生まれて
特に貧乏でもなく、逆に裕福でもない
本当に普通の家庭の子供だった
そんな俺がこんな世界に染まったのは
三年前のあの日
すごく暑い夏の日だった
確か…その年一番の猛暑日だったと思う
「待てって、おい、兄貴!!」
いつものように学校に行って
放課後は、大好きだった一つ上の兄貴の高校へ向かう
一緒に帰るぐらい、多分仲が良かったとは思う
「ついてくんな」
だけどその日はなんだか様子が違ってて
歩くスピードは俺に合わせてくれていなくて
俺がついてくるのを本当に嫌がっていた
「いつも一緒に帰ってんのに?」
「先帰れよ」
「告白でもすんの?」
「うぜぇな」
おちゃらけても声のトーンは変わらない
兄貴は嫌がりながらも話はしてくれて
その優しさに甘えてた
本気で嫌がってるなんて思わなかったんだ
「あれ〜、桜じゃん」
帰路の中で一番暗い道に入った時
兄貴が歩みを止めた
後ろから前を覗いた時に見えたのは
この辺であまりいい噂を聞かない制服の人たち
それが兄貴の友達?
そんなことを考えてたら腕を掴まれて
動けなくなってた
多分前にいた男たちの仲間で
それに気がつかないまま押さえ込まれてた
あの時、兄貴たちがなんの話をしてたとか
何をしてたとか覚えてなくて
人間ショックなことが大き過ぎたらさ
記憶って曖昧になんだよ
唯一覚えてることは
言い合いをする兄貴の姿と
俺の口に刃物を当てた兄貴の姿
あとはー
ほっとした顔の兄貴
その顔を最後に、気がついたら親と病院にいた
兄貴は一緒にいなかった
この傷、痛くはなかったかな
それよりも、兄貴がいなかったことのが痛かった
それから俺がこんなふうになるのに時間はかからなかった
親は引っ越そうとか、兄貴の名前を出そうとしなかったけど
俺はこの土地にまだ住んでいたかった
だけど、学校やこの世界には
《実の兄に一生残る傷をつけられる》
そんな事実は少し重かった
この事件があってから
学校に行くだけで
「バケモノ」
外を歩いたら
「カワイソウ」
そんな言葉で溢れる世界になった
俺はその世界が痛かった
だから傷を隠すために髪を赤く
真っ黒なマスクをつけて生活するようになった
誰も俺を叱らなかった
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