第209話

「わりー、職員室に財布取りに行ってくるわ」






「わかった」






「大人しく此処で待ってろよ!」







「わかってるよ」






帰りのHRの時、佐山先生に告げられた一言で

慌てて取りに行く叶斗の背中を見送って

帰る人の流れに目を向ける





あたしの前の席は空席のまま

昼食のあとから帰ってきてない








明日はいるかななんて呑気に考えていたのもつかの間





誰もいなくなった教室に勢いよく開く扉の音

叶斗が帰ってきたと思ったんだけど




視界の端で動くのは赤い髪




音を立てた主は椿だった









「なに?」






「女ひとりでここにいんのは不用心じゃん?」







「様子を見に来てくれたんだ」







「秋さんに言われたからな

あいつは今秋さんと話してるからまだまだ来ねぇよ」








軽い足取りで教室に入って来たと思えば、

教壇に座ってこっちを見る






あいつって、叶斗のことか

まあ、あたしが居ない今の方が腹を割って話せると思うからその方がいいよね







「お前、誰の女?」






「誰の女でもないよ」







疑う目



そんな目をされてもホントのことなんだけど



椿の中では秋の近くにいて

麒麟のみんなに匿われてるあたしの存在が気に入らないんだろう









「お前わかってんの?

出入りする女がいるってだけで、」







「麒麟にとっての弱点になるでしょ?

わかってる」







「ふざけんなよ、わかってんならなんで一緒にいんだよ」








「なんでって、」






バンッ





あたしたちの会話を邪魔するかのように響く音






「おい、椿いんのか」






音のした扉の方に目を向けると

そこにいるのは数人の生徒で、多分麒麟の下っ端だろう




椿にのされたあの時のメンツ





1人1人どこかしらに怪我をしていて、

この前の落とし前をつけに来たって感じだね








教壇に座る彼はどことなく余裕綽々とした顔







「なに?またボコられに来たの?」







「てめぇ、」







「おい、あれみろよ」







今まで椿を見ていた視線があたしに集まる

なに?







コソコソと内緒話

遠くでも聞こえる、麒麟の姫

名前は覚えられてないみたい





「なにか勘違いしてない?

もうお前らの姫じゃねぇだろ」

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