第二章 隻翼の白竜

第10話「運命が動き出した音がした」

 なにかを守らなければならないと思っていた。

 しかし、それがなんなのかが、思い出せない。


◆◆◆


「……わたしは、どれくらい眠っていた?」


 ぽつりとつぶやいた声で森が震える。

 彼が身じろぎをすると、背にとまっていた鳥たちが一斉に飛び立った。


「……ここは、どこだ」


 記憶が錯綜している。

 ひどく体が重い。

 なにか大切なことを忘れている気がする。


「竜の声だ」


 ふと、彼の耳が遠くの声を拾った。


「下手な竜語だな。まるで人間が竜の真似事をしているようだ」


 その声は澄んだものではあるが、竜特有の響きは含んでいない。


「……だが、どこか懐かしい」


 半ば衝動的に、その声の主に会ってみたくなった。

 だから彼は、ほとんど忘れかけていた魔術を使い、その声の主を引き寄せることにした。

 彼の魔力器官がひさかたぶりに稼働をはじめると、その暴圧的な魔力の奔流に再び森がざわめく。


「来い、わたしのもとへ」


 そのとき、運命が動き出した音がした。

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