2,異世界転生観測係について

 次に、僕たち「異世界転生観測係」について説明しようと思う。


 その前に、名前に含まれている「異世界転生」というシステムや、「観測」という行為について、少し触れておこう。


 夢を見続けたい人もいるかもしれないから、ここで一つ忠告しておくよ。もし現実を知りたくないなら、今すぐこの本を閉じて、天界で「異世界転生」という言葉を避けて生きるべきだ。


 それでは、まず僕たちの世界における「異世界転生」について話そうか。


「異世界転生」自体は、僕たちがよく知っているものとほとんど同じだ。一応「異世界トリップ」もできるけど、それらに至るまでのプロセスが僕らが認識しているものとは大きくずれている。


 まず、死者は魂となり、地上に余程の未練がなければ自然と天界の外縁まで昇っていく。そして、そこで舟に乗り、川を渡ることになる。所謂、三途の川だね。この時、地獄に行きそうな悪の魂は川下に流されてしまうらしい。残念ながら、その後どうなるかは僕も知らない。やっぱり地獄があるのかな。


 川の対岸に着くと、道が三つに分かれていて、それぞれ「天国」「異世界転生」「未練なし」と書かれた看板が立っている。三つ目の「未練なし」という選択肢があるように、「天国」や「異世界転生」は、魂が未練を残さないために存在しているんだ。なぜかというと、魂は輪廻転生を繰り返すけれど、未練があると記憶のリセットがうまくいかないことがあるから。前世の記憶を持っている人は、その未練が原因で記憶のリセットに失敗したんだと思うよ。


 これ以降深く触れることはないけど、一応「天国」についても少し話しておこうか。「天国」では、その人の理想の世界で、生前の記憶を元に満足するまで暮らすことができる。だから、「天国で会おう」は実現できないんだ。


 では、改めて「異世界転生」について説明しよう。少し複雑だけど、できるだけわかりやすく話すね。


 異世界がどうやって誕生するかというと、実は誰かがこの世界とは異なる世界を想像した瞬間に生まれるんだ。だから、異世界は必ずしもファンタジーの世界だけとは限らず、「もし○○だったら」という仮定から生まれることもある。


 じゃあ、なぜこのような方法で異世界が生まれるのか。それは未来の世界運営の参考にするためなんだ。必ずしも想像した人がそれを実現したり、実際に行動に移したりするわけではないからね。


 ただし、設定が曖昧だったり、結末が同じだと、その異世界は消えてしまうことがある。また、二次創作から生まれた異世界も全て消えてしまうんだ。異世界を管理する側にも限界があるから、本家が一つあれば十分とのことだ。


 そんなルールを超えて、異世界転生を実現させるために、僕たち「異世界転生観測係」が存在している。異世界転生観測係には「図書館」「遊園地」「映画館」という三つの支部があって、それぞれ書物や娯楽、映像作品に関する異世界を担当している。僕が所属していて、今回募集しているのは図書館支部だよ。漫画も僕らの管轄だし、例えゲームやドラマがあったとしても原作が本だったら、依頼が来るのは僕らのところだから、人手が多いに越したことはないんだ。


 話は少し戻るけど、死者が川を渡り、「異世界転生」と書かれた看板の方へ進むと、受付がある。そこでどんな異世界に転生したいかを決められるんだ。「おまかせ」や「くじ引き」で全部決めてもらうこともできるよ。そして、転生するタイミングで天界での記憶は消され、まるで地上から直接異世界に転生したかのような状況が作られる。


 依頼者が望む異世界は、必ずしも本家の作品に基づいているわけではない。たとえば、「このキャラクターと恋愛できたら」とか「学園ものに転生できたら」といった世界を希望する人もいる。もし僕が依頼する側になったとしても、そうなるだろうね。そして、そういう依頼が僕たちのもとに届くんだ。


 依頼は到着後、2種類に分けられる、まず1つ目は、全知全能の演算システムがあれば簡単に実現できるもの。もしその世界が誕生する可能性が少しでもあれば、障害を取り除いて、その世界がほぼ確実に生まれるようにする。この作業は遊園地支部のサイクルズが担当している。彼らは全知全能にアクセスできる機械の脳を持つホムンクルスで、遊園地の錬金術師と機械技師が作り出したんだって。


 2つ目以降は、演算システムだけでは対応できないもの。可能性がゼロでも、障害を取り除けば実現できる異世界や、僕たちが直接異世界に介入して誕生させる異世界がある。後者の作業が「観測」と呼ばれているんだ。ちなみに、前者の作業は図書館支部のベテランであるダヴィド係長やロビンさんが担当している。


 だから、もし君が図書館支部に来ることになったら、「観測」の仕事を担当することになると思うよ。

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