2.りんごの木
ある若葉の季節、いなかの少女とよそからきた青年が恋をします。
村を出て結婚しようと約束し、青年は準備のために村をはなれます。
「すぐにむかえにきます」
しかし、夏になっても青年はきませんでした。
秋がおとずれ、雪がふり、春がおわり、また夏になっても、もどってきませんでした。
少女は待ちつづけました。
何回目かの夏がきて、去りました。
青年はきません。
それでも少女は、青年を信じて待ちつづけました。
ずっとずっと。
少女はおとなになり、やがておばあさんになりました。
かつての初夏の日、ふたりでたわむれに埋めた種は、りっぱな木になって、秋にはりんごを実らせました。
しかし、いまは実も葉も落とし、冬じたくをはじめています。
かれ葉舞い散る庭を、今日もおばあさんは眺めていました。
そうじをしなくちゃと、ほうきを持って庭へ出ました。
名前をよばれ、ふり返ると
「……あなた⁉ あなたなの?」
やっとむかえにきたのです。
村をたった日のままの、若く美しい姿で、ほほえみをうかべて。
「ええ、ぼくですよ。あなたをむかえにきたんです」
「あなたは、あのころと少しも変わらないのねえ……」
「おそくなってすみません」
「いいのよ、いいの……だって、きてくれたんですもの」
青年が、手を差しのべました。
「さあ、いきましょう。ぼくの
「それは……だめだわ。わたしは、あなたを待っている間に、おばあちゃんになってしまった……」
「なにを言うんです?」
「えっ?」
おばあさんは少女の姿にもどっていました。
「さあ、いきましょう!」
「ええ……ええ!」
少女はばら色のほおで答えました。
ふたりは手に手を取って、かけ出しました……
家の中では、おばあさんがベッドに横たわっています。
まわりに、近所の人々が集まっています。
身よりのないおばあさんのために、お葬式の準備をしているのです。
子どもが母にたずねます。
「となりのおばあちゃん、どうしちゃったの?」
母は「天使さまがむかえにきて、いっしょに天国にいったのよ」と言いました。
おしまい。
《ゴールズワージー作『林檎の樹』から》
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