ガラスのサーカス

三上アルカ

1~10話

うそつきジョンの作り方

 あるところに、ジョンという男の子がいました。

 ジョンには、人間ではない友だちがいました。

 森に住む、妖精や小人やユニコーンです。

 ジョンは毎日森へ行って、妖精たちと遊びました。


 妖精たちは、ほかの人間には見えません。

 だから、ジョンが妖精と友だちだと言っても、信じる人はいません。

 妖精がいるのは物語の中だけさ。

 おとなも子どもも、そう言って信じません。

 そして、仲間はずれにします。

 ジョンは村の人々から、“うそつきジョン”とよばれていました。

 でも本当は、ジョンはうそつきではありません。

 本当のことを言っていたのですから。

 ジョンは、本当は正直者のうそつきジョンでした。


 ジョンはとうとう、みんなにうそつきと言われるのがいやになりました。

 ジョンは、森の友だちに言いました。

「ぼく、きみたちと友だちだって言うのやめる」

 妖精が聞きました。

「どうして? そんなことをしたら、本当にうそつきになってしまうわ」

「いいんだい。友だちがほしいんだよ」

 小人が言いました。

「友だちならぼくらがいるじゃない」

「人間の友だちがほしいんだ。もう仲間はずれはいやなんだ」

 ユニコーンがさみしそうにうなずきました。


 その日から、ジョンはうそをついて、妖精なんか見えないと言いはじめました。

 小人もいないし、ユニコーンと友だちじゃないよ。

 村の人々は、ジョンを“正直ジョン”とよぶようになりました。

 でも本当は、ジョンはうそつきな正直ジョンでした。


 それでもいいよ。

 ジョンは思いました。

 つぎに会ったとき、妖精たちは少し悲しそうな顔をしていました。

 それでもいいよ。

 ジョンも少し悲しい顔で思いました。

 ジョンが「変な子」でなくなると、村の子どもたちはジョンと遊ぶようになりました。

 ジョンに人間の友だちができました。

 ジョンはうれしくて、新しい友だちとばかり遊びました。


 ある日、ジョンは気がつきました。

 いつからか、妖精や小人、ユニコーンが見えないのです。

 ほかの人間には見えない、けれどジョンには見えていた、ふしぎな友だちが見えないのです。

 森の中を、大声で探しまわりました。

 でもいません。

 いえ、いないのではありません。

 ただジョンに見えないのです。

 ジョンは思いました。

 ぼくが見えないと言っていたから、ほんとに見えなくなっちゃったんだ。

「ごめんよ……帰ってきておくれよ」

 ジョンは泣きました。

 けれど、妖精たちが見えるようにはなりませんでした。


 その日から、ジョンはうそをついて、妖精が見えると言いはじめました。

 小人もいるし、ユニコーンと友だちさ。

 そう言っていれば、また彼らが見えるようになって、友だちにもどれると思ったのです。

 ジョンの願いむなしく、森の友だちはあらわれません。

 でもジョンはうそをつきつづけました。

 村の子どもたちはジョンから離れていきました。

 それでもジョンはうそをつきつづけました。

 ぼくは妖精が見えるんだ。小人はおもしろいやつなんだ。ユニコーンはやさしい目をしているよ。みんなほんとにいるんだよ。ぼくの友だちだよ……


 ジョンは村の人々から、また“うそつきジョン”とよばれるようになりました。

 そして、本当にうそつきなうそつきジョンになりました。

 

 おしまい。

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