Episode27

第90話

優芽は別の診察室で千晶の治療を受けていた。テーピングを外してステロイドを注射する。テーピングが少し強かったせいで優芽の白い手首は赤くなっていた。


「優芽さん。すみませんでした。テーピングが強かったですね。痛くないですか?」


千晶が優芽の手首を優しくさすっている。


「大丈夫です。早く治したいので、先生が思う通りにして下さい。お願いします。」


優芽の綺麗な顔と柔らかな声に千晶は魅了されていた。


「じゃあ優芽さん。治るまでは僕の言うことをなんでも聞いてくれますか?僕が優芽さんを必ず治しますから。」


千晶の瞳に宿る影に優芽は少し恐怖を覚えた。

この瞳を覚えている。母の眼差しに似ている。


「治療の事はおまかせします。」


優芽は言葉を選びながら考えていた。


「毎日診察に来て下さい。あとなるべく安静にした方が良いので、外出はなるべく控えて下さい。クリニックまではどうやって通われていますか?」


「今日は兄が車で連れてきてくれました。いつもはタクシーで通っています。」


千晶は少し残念そうに呟いた。


「じゃあ今日は無理ですね。明日は僕がお宅まで送りますよ。優芽さんの治療が最後になってますから。」


優芽は何となく今は断らない方が良いと思った。後で兄に相談しよう。


「わかりました。ありがとうございます。」


千晶は満足気に優芽にテーピングを施した。

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