第88話

哉芽は優芽を探して稽古場に入った。優芽は遺影の前で立っていた。


「優芽。ただいま。色々ありがとう。」


哉芽の声を聞いた優芽は振り返って哉芽に抱きついた。


「兄さんお帰りなさい。会いたかった。旅はどうだったの?兄さんは幸せになったかしら。」


哉芽は笑顔で迎えてくれた優芽の様子が少し違う事に気がついた。優芽の手を握ろうとして、手首のテーピングを見つけた。


「優芽怪我したの?大丈夫か?治療したの?」


心配で慌てている哉芽に優芽は優しく笑った。


「腱鞘炎みたい。展覧会で忙しかったから。治療は燈馬さんのクリニックに通ってるの。千晶先生って言う腱鞘炎に詳しい先生が診てくれて、ステロイドの注射とテーピングをしてくれているの。」


「痛みは大丈夫?燈馬先生の方が良いんじゃないのかな。僕が頼んでみようか。」


「大袈裟よ大丈夫。ちゃんと治療して頂いてるから。今日も注射に行く予定よ。」


哉芽は優芽を見つめた。優芽の僅かな変化はなんだろう。優芽自身は気づいてないようだ。


「じゃあ一緒にクリニックに行こう。僕も燈馬先生に会いに行くから。」


優芽は嬉しそうに哉芽に微笑んだ。


「兄さんが幸せに笑ってる。嬉しい。私も茉白さんに会ってみたいな。」


哉芽は優芽の頭を撫でた。


「そうだね。茉白の体調が良い日に会えるか燈馬先生に聞いてみるよ。」


二人は稽古場を後にした。

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