第80話

哉芽は茉白の言葉を思い出していた。僕が自由になる。本当の幸せをみつける。それは、茉白はいつか哉芽が茉白の元から去ると思っているということなのだろう。


二人の関係は長く続かないと。いくら違うと言っても無理だろう。哉芽の方が茉白を失う恐怖に怯えているのに。茉白の身体や心に負荷をかけないように一緒に生きていけるのか、哉芽にはまだ分からない。ふと燈馬を思った。


彼なら茉白を幸せにできるだろう。なのになぜ茉白と哉芽を近づけるような事をしたのか。彼の茉白への愛は自分より深いのでは。いつか燈馬の愛に負けてしまうような自分が情けなかった。


こんなに人を求めたのは初めてだった。壊したくないが触れずにはいられない。茉白は僕に何を求めているのだろう。


「会いたいな。こんなに寂しいなんて思わなかった。もう側から離れるなんて無理だよ。」


空を見つめた。今日は雨は降らない。特別なあの時を思い出し哉芽の心は幸せに包まれた。


「今はまだ。もう少しこのままで。」


祈りの言葉のようにいつまでも胸の中で呟いていた。

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