Episode20

第67話

夏がきた。外は強い光に溢れている。

茉白は遮光カーテンの隙間から漏れてくる光の線を見ながら旅支度をしていた。葵が無事に出産を終えたと連絡があったからだ。


葵と赤ちゃんに会える嬉しさで茉白の顔は晴れやかだった。荷物の中には紫耀が遺した花器も入っている。茉白からのプレゼントとして渡すつもりだ。


「茉白、支度出来た?手伝う事ある?車に荷物運ぶよ。」


燈馬が茉白に声をかけた。


「ありがとう。スーツケース1つだから大丈夫。後で自分で運ぶから。」


茉白は手配したハイヤーで地方の小さな街にいる葵の元へ向かうのだ。


「本当に一緒に行かなくて大丈夫?無理だけはしないでね。頓服を持っていってね。」


燈馬の顔は少し寂しげだった。


「大丈夫よ。ちゃんと戻って来るから。待っててね。燈馬君こそ私がいない間ゆっくり休んで」


茉白は燈馬の肩をそっと触った。


「葵へのお祝いありがとう。ちゃんと葵に渡すね。きっと喜ぶわ。葵は燈馬君ファンだから」


燈馬は照れくさそうに笑った。


「葵ちゃんだけだよ。僕を褒めてくれる子は。葵ちゃんが喜んでくれる為になら何でもするからね。僕の可愛い妹みたいな存在だから。でも茉白は僕のお母さんじゃないからね。」


燈馬は茉白の頬にキスをした。


「ハイハイ。燈馬君は大切な存在だよ。私のヒーローだもの。」


燈馬は少し残念そうな顔をした。


「王子じゃないんだ。まあ下僕よりはマシか」

茉白のスーツケースを受け取って運び始めた。


「気をつけてね。きっと無事に帰ってきて、僕のお姫様。待ってるから。ずっと。」


「行ってきます。正義の味方さん。本当にゆっくりしてね。心配しないで大丈夫だから。」

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