第43話

茉白は目が覚めた。夢の中でクラッシュした瞬間を思い出していた。ああそうか。私は辛すぎて忘れていた。


哉芽は心が痛かったんだ。私の身体の痛みよりも強い痛みを心に抱えていたんだ。哉芽の瞳を思い出して涙が止まらなかった。


「茉白。大丈夫?痛みが酷いの?動ける?」


燈馬の優しい声が聞こえる。茉白は涙を拭って身体を起こした。


「燈馬君私は大丈夫。忘れていた大切な事を思い出したの。私は彼に会わないと。会いたい」


燈馬は茉白が誰の事を言っているのか聞くのが怖かった。もうこれ以上茉白が傷つくのは見ていられない。茉白を抱きしめて耳元で囁いた。


「茉白。もう辞めて。自分の幸せだけを考えて。僕が君の側にいるから。葵ちゃんも茉白の幸せを祈ってる。もう充分苦しんだよ。自分を許してあげて。全て終わったんだよ。」


茉白は燈馬に笑顔で答えた。


「私と紫耀さんの罪を哉芽君に抱えさせる事はできない。彼の痛みを癒してあげたいの。」


「哉芽君はもう君に会わない方が良いと言っていたよ。紫耀さんの遺言の事も忘れてくれて良いからって。君を心配してたよ。」


茉白は孤独な闇を抱えて震えている哉芽を想って胸が苦しくなる。


「無理よ。放っておけない。紫耀さんや葵と同じ瞳に孤独を宿したままなんて。救いたいの」

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