第34話

燈馬は哉芽の涙を黙って見つめていた。

彼は何も悪くない。それでも彼の存在は茉白にとって猛毒でしかない。燈馬は静かに涙を流す美しい哉芽が怖かった。


「紫耀さんが葵の存在を知っていて二人に遺言を遺したの?葵の父親は自分が産まれる前に死んだ事になってる。葵の真実は決して伝えたくないと、茉白は今まで生きてきた。それなのに、紫耀さんは二人に何をしたかったの?」


哉芽は顔を上げて燈馬に告げた。


「葵さんに会うつもりも真実を告げるつもりもなかった。自分はもう直ぐ死ぬ身だからそのままで良いと。ただ茉白さんに会いたかった。葵さんの存在を教えて欲しかった。


一緒に罪を背負いたかった。ずっと愛している。幸せにできなくてすまないと。今はここまでです。


まだ続きがあるようですが、茉白さんに伝える前に読むべきではないと思ったので。」


燈馬は怒りを顕にした。


「勝手だね。紫耀さんは。自分の気持ちを茉白に押し付けて死ぬなんて。茉白は救われないじゃないか。ずっと葵と二人で必死に生きてきたのに。あの時も勝手に茉白を傷つけて。」


哉芽は燈馬の気持ちがよく分かった。哉芽も父に怒りを感じていた。

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