第31話

母は父を手に入れた。じゃあ茉白さんは父と不倫関係になって子供を産んだんじゃ無いのか?


哉芽が燈馬に問いかけようと息をのんだ時、

燈馬が振り返り、哉芽を見て語りかけた。


「ここから先は僕の想像だ。茉白は最後まで真実は語っていない。それでも良いかな?」


「はい教えて下さい。燈馬さんはどう思っているのですか?父が茉白さんを?」


燈馬は紫耀にそっくりな顔を見つめて複雑な気持ちになる。出来れば紫耀自身に思いをぶつけたかった。真実を問いただしたかった。


「あの日茉白は稽古の後、当番で花器の片付けをしていたらしい。茉白の兄さんが茉白を迎えに来る手筈だったから、片付けを終えた茉白は一人で待っていたらしい。

その時に偏頭痛を起こして薬を飲んだ。横になって痛みに耐えていた所に、紫耀さんが来た。


茉白の姿を見た紫耀さんはもう気持ちを抑えられなかった。そして薬で朦朧として動けない茉白を無理やり抱いたんだ。


茉白はその時の事を今でもたまにフラッシュバックする。痛みが酷くて意識が無くなりそうになる時にね。」


哉芽が見た茉白の姿。あれは父が茉白にした事なのか。


「茉白の兄さんが茉白を探して稽古場に行った時には茉白が一人で泣いていたらしい。何を聞いても答えず、ただ泣いていたそうだ。」


燈馬は苦しそうに呟いた。


「次の日、哉芽君が昨晩生まれたと睦月の家にも連絡が届いた。それを聞いた茉白は気を失って暫く起き上がれなくなった。


多分初めて茉白がクラッシュした瞬間だったと今は思っている。何ヶ月かして茉白の妊娠がわかった。」

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