Episode9
第29話
「茉白は華商如月の娘で紫雲派と古い付き合いがあった。小さい頃から卸市場や稽古場で家元の嫡男の紫耀さんと顔を合わせていた。
茉白は身体が弱くて、激しい運動が出来ないし良く学校を休んでいた。そんな茉白に紫耀さんは華を活けてあげていた。
幼馴染から自然と愛し合うようになったらしい。紫耀さんは自分が家元になったら茉白と結婚するつもりだったみたい。
周りもそんな二人を暖かく見守っていた。
僕も笑顔で幸せそうな茉白が大好きだった。」
燈馬はあの笑顔を思い出し、胸が熱くなった。
「紫耀さんが25歳で家元を継ぐ話が持ち上がり、茉白も高校を卒業した頃だよ。君のお母さんが現れたのは。」
哉芽は口をギュッと結んで聞いていた。
「ホテルチェーンの娘で、紫雲派の華道展が行われた会場に父親と招待されて来たそうだ。
紫耀さんを一目見て恋に落ちたらしい。君のお母さん、咲来さんは自分が欲しいものは必ず手に入れないと気が済まない性格だった。
初めは紫耀さんにアピールしていただけらしい。でも茉白の存在を知った咲来さんは紫耀さんとの結婚を親から紫雲家に持ちかけさせた。資金援助をチラつかせてね。」
哉芽は母の瞳を思い出す。苦しそうな母の姿は、父に裏切られたせいだと思っていたが。
「じゃあ父は家の為に母と結婚したということですか?茉白さんを捨てたと?」
燈馬は寂しげに首をふった。
「いいや。紫耀さんは咲来さんにハッキリ言ったそうだ。愛している人と結婚するから、君とは結婚出来ないと。」
「でも母と結婚しているじゃないですか。」
「咲来さんは諦められなかった。紫耀さんと茉白の姿を目にして、よけいに紫耀さんが欲しくなったらしい。」
「なぜ他の女性を愛している父を。虚しいだけなのに。」
燈馬は哉芽を見た。やっぱり紫耀さんの息子だ。そう思い少し哉芽が愛おしく感じた。
「茉白に嫉妬と憎悪を抱いたんだろう。茉白があまりにも透明で綺麗だったから。紫耀さんを信じて、二人の未来をなんにも疑わずに夢みているような。そんな茉白が羨ましかったらしい咲来さんはその頃30歳で年齢的にも焦っていたようだし。」
「母は何をしたのですか。教えて下さい。」
哉芽は目を瞑って燈馬の言葉を待った。
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