第28話

哉芽の表情が曇る。傷ついているようだ。


「そうですね。目を閉じていました。様子が変わり始めたのは葵さんの存在を父が知っていると言う内容からでした。僕や妹を傷つけてしまう。だから紫雲家は茉白さんと葵さんの事はもう忘れてほしいと。」


燈馬は目を閉じた。自分より他人の心配をしてしまう茉白らしい。でも。


「それだけですか?本当に?」


哉芽は認めたくなかった。でもやっぱり茉白は僕を父と思っていたのか?


「茉白さんが辛そうにしていたので、横になった方が良いと思いベッドへ連れていきました。気圧が下がっていたようなので。」


燈馬は哉芽の肩を掴んで揺さぶった。


「お前茉白に何をした!お前のせいで茉白はフラッシュバックしたんだぞ。分かっているのか」


哉芽は耳を疑った。


「フラッシュバック?まさか父が茉白さんを?そんな。じゃあ、あの言葉は。燈馬さん、二人は恋愛関係だったはずだ。なのになぜ茉白さんがフラッシュバックする程父は茉白さんを傷つけていたのですか?」


燈馬は哉芽の様子を見て何も知らない事を知った。真実を知れば彼はどうなるのか。でも聞かなければ。


「あの言葉?茉白は何て言ったんだ。」


「もうすぐ生まれるのに、父親になるのに、これ以上嫌いになりたくないと。」


燈馬は項垂れた。


「君だよ。」


「僕が生まれる?二人は母に内緒で関係を結んでいたのでしょう。だったら僕が生まれる事でなぜ茉白さんが父を嫌うのですか?」


哉芽の顔が青ざめていく。


「君が生まれた日。紫耀さんは茉白を無理やり抱いた。二人は愛し合っていたけど、君のお母さんに引き裂かれた。あの日茉白は華道の稽古で紫雲家に行っていた。あの頃から茉白は気圧の低下でよく偏頭痛を起こしていた。当時の鎮痛剤は眠気が強いものが多くてね。薬を飲んだ茉白は朦朧としていたらしい。」


「待って下さい。引き裂かれた?母は何を。」

燈馬は哉芽から手を話して遠い目をして空を見つめた。


「僕は9歳だったから全部後から聞いた話だけど。良いかな。」


「結構です。お願いします。」

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