Episode6

第16話

あれから月日が流れていた。やっと燈馬の許可を得て茉白の部屋へ来た哉芽は静かにベットに横たわる細い身体に胸が震えた。


鎮痛の為に毎日打っている点滴が終わったばかりで身体を横たえていたままだった。


「ごめんなさい。今其方でお話を伺います。」


身体を起こそうとする茉白を哉芽が支える。


「ゆっくりで結構ですよ。お辛いなら、寝たままでも構いません。無理を承知でお願いしているのですから。茉白さんの身体が楽なようにして下さい。」


哉芽の声が茉白の耳に響く。身体を支えられてふと香った哉芽の香りは紫耀と同じで。


「大丈夫です。リビングへ行きます。」


切なくなって哉芽から顔を逸らして起き上がる。もう昔の事は全て終わったはずなのに。


紫耀は茉白に何を伝えたかったのだろう。

哉芽の声で紫耀の遺言を聞くなんて。


「ごめんなさい。本当は文書を頂ければ良いのですが。文字を理解するのに時間がかかるので。燈馬君には内容の開示は出来ないのですよね。」


リビングのハイチェアに座った茉白の柔らかな声。何故こんなに温かくて気持ちが良いのだろう。実年齢よりも若く見える茉白が自分より年下のような気がする。


「すみません。僕もまだ把握できていないので。第三者の介入はできるだけ避けたいんです。全部終わった後の事はまた考えさせて下さい。書類等の手続きが必要な場合は私が全てお手伝いしますから。」

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