第12話

茉白は覚悟を決めた。彼が気づいているならば、きっと答えは手に取るようにわかってしまう。そういう人だから。


茉白は7文字を入力した。

(aoi0503)

パスワードは解除された。


タブレットの中にはフォルダがいくつかあり、その中に茉白の名前の物がある。


タブレットの液晶画面は感覚過敏を持つ茉白には眩しすぎる。


「ごめんなさい。私はタブレットを見る事ができません。内容は、哉芽さんが確認して下さい。私は知る必要がないので、このまま持って帰って下さい。」


眩しそうに目を背ける茉白を見てこれも症状のひとつなのかと哉芽は気づいた。


「内容は茉白さんが知るべきものです。是非父の思いをご理解下さい。画面を見るのが辛いのであれば、僕が読み上げますから。」


その時燈馬が部屋に入ってきた。


「茉白、雨が降るよ。点滴を済ませよう。」


哉芽が怪訝な顔を燈馬に向ける。外はこんなに晴れているのに、2人の時間を邪魔された気がして不機嫌だった。


「雨ですか?こんなに良い天気ですよ。」

茉白が燈馬を庇うように説明し始めた。


「私は気圧が下がる時に身体が痛くなるんです。先生はアプリで気圧の情報を把握して教えてくれています。もうすぐ気圧が下がって雨が降る予報が出たのでしょう。」


哉芽は燈馬の味方をしている茉白の態度に何故か腹が立って怒りを覚えていた。そんな自分に驚いてもいた。


「わかりました。今日はこれで失礼します。また後日改めて伺います。茉白さん父の遺言を僕がお伝えする形で宜しいですね。」


茉白が返事をする前に哉芽は部屋を出ていった。雨が降るよ。その言葉が耳に残って離れなかった。

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