第11話
哉芽は気づいたら柔らかな光に満ちた部屋にいた。目の前に茉白が座っている。茉白に促されてここに来たのだ。
「座ってください。お構いは出来ませんが。」
茉白の声に体が震える。自分の感情を必死に抑えて、哉芽は茉白の前に座った。
「改めてまして、紫雲哉芽です。紫雲家の顧問弁護士と公認会計士として紫雲家の全てを
統括しております。」
渡された名刺を見て哉芽の名前を見つめた。
「素敵なお名前ですね。」
父親が名付けた名前が哉芽は嫌いだった。
「今日は茉白さんに確認して頂きたい件があり無理を承知でここに来ました。父が生前私に託したものです。」
哉芽はビジネスバッグから、タブレットを取り出した。
「父の持ち物でした。パスワードが設定されていて開く事ができません。この中に父からあなたへの遺言があると聞いております。」
茉白はタブレットに目をやり怪訝そうな顔をした。
「遺言ですか?私に?そんな事。お父様が本当に私の名前を貴方に伝えたのですか?」
茉白の顔が辛そうになっていく。哉芽は胸が締め付けられる。
「はい確かに貴方に伝えるように申しつかりました。パスワードも貴方がご存知のはずだと」
茉白は深く息を吐いた。痛みを我慢する為に。
「私がパスワードを?お父様にお会いしていたのは30年前ですよ。その頃にタブレットなんてありません。」
哉芽は茉白の顔に嘘がないか見極めようとしていた。本当に会っていなかったのか。
「父は5年前癌の告知を受けました。その直後にこのタブレットを使い始めています。」
5年前。もしかして。あの人は知っているの?
「文字数はわかりますか?」
茉白は青ざめながら哉芽にたずねた。
「7文字です。僕も思いあたる物は試したのですが、全然解らなくて。茉白さんならご存知かと思って。是非教えて下さい。お願いします。」
一瞬怯えた瞳に哉芽は胸が苦しくなった。茉白は知っている。確信した哉芽はタブレットを茉白に渡した。
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