第5話
優芽は涙を拭い哉芽に微笑んだ。哉芽が望んでいると知っていたから。
「兄さん。私は大丈夫だから心配しないで。お願いだから無理だけはしないでね。兄さんが幸せになって穏やかに暮らせるまで、どんなことでも応援するから。何時でも兄さんの味方でいるから。忘れないで。」
哉芽は優芽の笑顔に満足そうにうなづいた。
「わかった。とにかく明日逢いに行く。全てはそれからだ。必ず優芽にも報告するから。家の事頼んだよ。」
美しくて孤独な兄を救いたい。
優芽は無力な自分を呪いながら生きている。
「紫雲派の事は任せて。展覧会も無事にやり遂げるから。お父様の為にも、兄さんの為にも、私ができるのは花を活ける事だけだもん。」
哉芽は健気な妹が愛おしかった。哉芽が唯一愛おしいと言う感情を持てるのは優芽だけだ。誰にでも愛される能力を持つ麗しい妹が自慢だった。優芽なら家元としても、女性としても立派に幸せに生きてくれる。そう信じている。
哉芽はもう一度遺影を見つめる。自分に孤独と試練を与えた父親の顔はもう1人の自分を見ている位によく似ている。
僕がもうこの世にいないようなきがする。僕はなんの為に生まれたのか。そんな感情に支配されている哉芽の表情はまた無機質になっていく。
優芽は兄の背中をそっとさすっていた。
せめて自分の思いだけは、孤独な兄に届くように願いながら。
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