Episode2

第3話

大広間の祭壇の前で遺影を見つめている。その表情があまりにも無機質で優芽(ゆめ)は怖くなった。


「兄さん。お疲れ様でした。色々ありがとう。兄さんのおかげで皆さんに安心して頂けたようです。私1人ではまだまだ頼りないと思われる事ばかりですから。」


遺影から目を逸らして妹を見つめる瞳は優しいのに、続く言葉は何処か冷たかった。


「これからは紫雲派の表舞台は全て優芽に任せたから。僕が喪主を務めたのは母さんの代わりだし、優芽が家元を継ぐ事がこれで正式に決まったからね。僕は裏から優芽を支えるよ。」


華道古流紫雲派家元は本当は嫡男である紫雲哉芽(しうんかなめ)が務めると思われていた。

妹で25歳の優芽が家元を継ぐ事はお堅い幹部の方々は面白くなかっただろう。


「はい。お父様と約束した通り、精一杯努めます。兄さんこれからも宜しくお願いします。」


優芽が下げた頭を哉芽は優しく撫でた。


「優芽なら大丈夫。華道会でも優芽は注目の的なんだから。才能も容姿も優芽が1番だって。」


優芽にとっては自分を見つめる兄こそが賛美に値すると思っている。才能も容姿も兄より美しい人を優芽は知らない。


「兄さんにそう言われて嬉しいです。これからは兄さんの幸せを1番にかんがえてね。もう兄さんは自由なのだから。」

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