第96話

琥珀は顔を歪ませた。怒りを抑えるのが精一杯だった。


「酷いですね。ご両親が。だから彼のような男に惹かれてしまうのですね。


それで自分の身体と心を壊すなんて。彼女は自分を大切にする事はできないのですか。」


薫乃は資料を見ながら応えた。


「依存がかなり強いので今が1番心配ですね。

相手がいる間は夢中で動いているのですが、


1人になると不安神経症が強くなってうつ症状が出るんです。


そうなると自傷行為や突発的に自殺する可能性があります。」


「そうですか。ではまだ入院していた方が良いのですね。ご両親との関係が悪いのなら、


彼女の入院の手続き等はどうしたのですか。」


「彼女のお母様が。小野さんが受験に失敗した後にお父様に隠し子がいた事がわかって。


お父様はお母様を捨てて再婚されたそうです。

お母様は実家に戻られたそうです。」


「そうなんですね。じゃあこれからはお母様が彼女の支えになれるかもしれませんね。」


「お母様にもカウンセリングが必要ですね。今小野さんと一緒に私が診察しています。


2人は似ているので、間に強い決定権を持つ人がいないと関係が成立しないんです。」


哉芽は薫乃に頭を下げた。


「多田先生を巻き込むような事になってしまい申し訳ございません。


何かこちらでお手伝いできる事があれば教えて下さい。」


薫乃は琥珀の方を向くと琥珀に語りかけた。


「長内さんにお願いがあります。もし小野さんが助けを求めてきても、何もしないで下さい。


小野さんは長内さんを新しい依存先にしたいと思っているみたいなんです。」


「僕ですか?何故僕なんでしょうか。」

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