NO.33

第97話

薫乃はカバンから本を取り出した。


「これを読んでください。依存について書かれている医学書です。


小野さんがカサンドラ症候群が強く出ている時に手を差し伸べたのが長内さんでした。


彼女は長内さんが自分を救ってくれる存在と認識しています。」


「僕は何も。でも悩みを聞く位はできますよ」


「今の彼女は依存の方が強くなっています。相手に全て委ねて決めて欲しいと願っています。


彼女の人生全てを託したいと思って長内さんの時間や気持ちを全て奪っていくでしょう。


どんなに優しい方でも精神的に強い方でも依存が強い相手では上手くいきません。」


哉芽は薫乃の話しを聞きながら琥珀の表情を気にしていた。


「琥珀は優しいから助けを求めている人がいたらほっとけないよね。


それでは琥珀の心も壊れてしまうかもしれないそれは小野さんにとっても良い事ではない。


琥珀は小野さんの事どう思う?心配なだけ?女性として魅力を感じてるの。」


琥珀は俯いていた。薫乃は琥珀の瞳が気になっていた。


「わからない。ただあの時は側にいないと消えてしまいそうで。


傷ついている女性をもう見たくないんだ。それは小野さんだけじゃなくて、他の女性でも同じだと思う。」


「もう少し小野さんの治療が落ち着くまで長内さんは小野さんと距離を置いてください。


お二人の為なんです。今のまま恋愛関係になると小野さんが長内さんを壊してしまいます。」


琥珀は薫乃に笑顔を見せた。


「多田先生。心配してくれてありがとうございます。僕は大丈夫です。


でも小野さんとは関わりません。彼女が早く良くなるように祈ってます。」


「ありがとうございます。哉芽先生もお気をつけ下さい。


千晶先生は哉芽先生や睦月先生を恨んでいるようなので。」


「わかりました。気をつけます。多田先生もお気をつけて。


琥珀、多田先生を送ってくれる?1人で帰すのは心配だから。」


「もちろん送るよ。ご自宅と病院どちらが良いですか。」


「ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えて良いですか。


自宅でお願いします。哉芽先生、また何か裁判で必要な証言や資料が必要でしたらいつでも言って下さい。」


「わかりました。またご連絡します。宜しくお願いします。」


琥珀は帰る支度をしていた。哉芽は薫乃に小さい声で囁いた。


「琥珀は何か抱えているようです。先生お願いできますか。」


薫乃も小さい声で応えた。


「わかりました。私にできる事があれば何でもします。またご連絡します。」


2人は琥珀の背中を見つめていた。

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