第57話

稽古場に優芽と燈馬が残っていた。琥珀は2人きりにする為に先に帰っていた。


「優芽さん泣き止んで。何が悲しいのか教えて。1人で抱えちゃ苦しいよ。」


優芽は燈馬の腕の中で安堵を覚えていた。


「茉白さんの決意が苦しくて。茉白さんは兄さんの未来の幸せまで考えてるなんて。


茉白さんが亡くなって、兄さんが他の人を愛して家族を作る為にそのまま保存して欲しいと言われました。」


「そうなんだ。茉白らしいね。茉白はやっぱり強いな。哉芽君を本当に愛してるからずっと幸せでいて欲しい。


自分の事なんて考えてない所が優芽さんと一緒だね。もっと自分の気持ちを大切にして欲しいのに。」


燈馬は優芽を強く抱きしめた。


「お願いだから優芽さんは素直になって。誰かの為じゃなくて自分がどうしたいのか。


僕は優芽さんが幸せでいてくれればそれで幸せだから。ずっと2人で生きていこう。」


優芽は初めて自分から燈馬にキスをした。


「燈馬さん。こんな私を愛してくれてありがとう。燈馬さんといつまでも一緒にいたい。


茉白さんが教えてくれました。もう一度下弦の月から私達の物語を始められると。


だから自分の素直な気持ちを大切にします。

お父様の華道の技術を守って自分の作品を作って行きます。


そして本当に華道を愛してる人にお父様の技術を伝えて、広めて行きます。」


燈馬は外を見上げた。


「下弦の月か。素敵な言葉だね。紫耀さんもきっと見守ってくれるよ。


僕も素直になるよ。もう優芽さんを離さない。

結婚しよう。ずっと一緒に乗り越えていこう」


優芽は燈馬の顔を見つめた。


「はい。宜しくお願いします。2人でずっと一緒に。燈馬さんとなら笑っていられるから。


愛してます。燈馬さんの家族にしてください」


2人は笑顔で抱きしめあっていた。

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