第42話

琥珀はひとつ息を吐いた。


「咲来さんは婦人科の病気になって、卵巣を摘出したと母に言った。


自分はもう子供を持てないと泣いていたらしい。でもどうしてももう1人産みたいと言ってた


哉芽はホテル事業の跡取りに決まっているから

もう1人紫雲家を継ぐ子供が必要だと。


子供が持てなかったら離婚しないといけない。

哉芽から父親を奪うことになる。


それだけはどうしても避けたいから、母に卵子を提供して欲しいと頼んできた。


父が継ぐはずだった事業を哉芽が継ぐことに負い目があったし、咲来さんは命の恩人だから、


母は自分にできる事ならと、咲来さんの申し出を受けたんだ。父にも内緒で卵子を提供したらしい。


母は咲来さんがその後どうしたのかは聞かなかった。咲来さんも連絡してこないまま時がすぎた。


僕達親子は5年前まで何も知らずに普通の暮らしをしていた。穏やかで、幸せな家庭を築いていた。


哉芽や優芽ちゃんが辛い思いを抱えながら生きていたなんて。僕達の幸せは2人のおかげだった

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