NO.7

第19話

茉白が燈馬に頼んであるからと車で送って貰う事になって、優芽は戸惑っていた。


地下のエントランスで待っていると燈馬が車を止めて迎えに来てくれた。


「優芽さんお待たせ。さあ乗って。荷物はそれだけかな?」


茉白が持たせてくれた料理の包みをトランクに入れて優芽を助手席に座らせた。


その間も優芽は燈馬の顔をまともに見ることが出来ずにいた。


「じゃあ行こうか。疲れたでしょう。寝てもいいからね。」


「すみません。ありがとうございます。」


燈馬は優芽に微笑むと車を走らせた。


もう燈馬の隣にいられるのは最後かもしれない。そう思うだけで泣いてしまいそうになる。


「茉白と何を話してたの?茉白があんなに嬉しそうなの久しぶりに見たよ。」


「葵さんと赤ちゃんの写真を見せて貰いました。後は一緒に料理を作ってくれました。」


「茉白は優芽さんが可愛くてたまらないんだね。付き合ってくれてありがとう。


葵が遠くにいるからやっぱり寂しいのかな。これからもたまに会って貰えると茉白は嬉しいと思うよ。」


「私こそ茉白さんに可愛がって貰えて嬉しいです。葵さんの代わりにはなれませんが、


私に出来ることは何でもします。兄を幸せにしてくれて本当に感謝してるので。」


優芽は嬉しそうに茉白の事を話す燈馬を見て少し胸が苦しかった。


やっぱり燈馬は茉白を心から愛してるのだと思ったから。


「優芽さん。人の幸せを考えられる事は素晴らしいけど、もう少し自分の事を考えても良いんだよ。」


燈馬の言葉に優芽は驚いた。


「どうしてそんな事を言うのですか?私は幸せですよ。今までも、これからも。」


「君は本当に優しいね。自分の幸せが欲しいと思わないの?」


「優しくなんかありません。自分の大切な人の幸せが私の一番の幸せなんです。


燈馬さんも同じですよね。いつも茉白さんの幸せばかり考えていて。」


「僕も優しく無いよ。茉白を好きだったから嫌われたくなくて無理をしていただけだし。」


照れくさそうに笑う燈馬の横顔が優芽には眩しかった。


「私も同じです。誰かの為に生きる事しか無かったんです。嫌われたくないだけです。」

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