NO.5

第13話

燈馬は診察室で優芽を待っていた。今日は腱鞘炎が再発していないか確認の検査をする予定だ


着物姿の優芽の手首を握ってしまったことを思い出す。


胸が苦しくて気持ちが落ち着かない。


「院長、診察お願いします。」


看護師に促されて優芽が入ってきた。

優芽の姿を見て顔が熱くなって恥ずかしい。


「こんにちは優芽さん。手首はどうですか?

痛みや痺れはありませんか。」


優芽に自分の気持ちを気づかれたら。

不安で優芽の目が見られなかった。


「こんにちは。いつもありがとうございます。

痛みや痺れはありません。」


優芽の声を聞いて燈馬は優芽の顔を見つめた。

優芽の表情が何時もと違っていた。


「そうですか。とりあえず触診させて下さい。

後でレントゲンも撮りますね。」


優芽の手首を触診しながら優芽の表情を探る。

この目を何処かで見た気がする。


何かを決意して、何かを失ったような瞳を。

儚げで目の前から消えてしまいそうな。


「痛いですか?我慢はしないで教えて下さい」


優芽は燈馬の目を見て微笑んだ。


「大丈夫です。治して頂きありがとうございます。」


これでもう此処へ来ることもないだろう。

これ以上燈馬の近くにいたら決意が揺らいでしまう。


「再発しないように気をつけますね。本当に今までお世話になりました。」


優芽は今できる精一杯の笑顔で燈馬に頭を下げた。涙が零れないように祈りながら。

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