第59話

「じゃあ、アイスティーで」


「わかった。ちょっと待ってて」


スタスタと売店に行く千秋を紬は愛おしそうに見ていた。


「お待たせ、平日はやっぱり回転早いね」


はい、とアイスティーを紬に渡す。


「ありがとう、いくらだった?」


見とれていてお財布の存在を忘れていた。


「いいよ。こんぐらい奢らせてよ」


お財布を出そうとした紬の手を千秋は止める。


「でも…」


「いいから

じゃあ今度、何か奢ってよ」


「今度もあるの?」


千秋の口から"今度"という言葉が出てくるとは思わなかったから思わず聞き返す。


「え、ないの?」


紬はぶんぶんと首を横に振って否定し、両手で顔を覆う。


「嬉しくて…」


「なら良かった」


『ただいまより、5番シアターで上映の明日、君がもし僕のことを忘れてもをご鑑賞の方は案内を開始致します』


アナウンスが流れて、紬と千秋は列に並ぶ。

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