90

正装をした三人が叔父さんの手配したリムジンで家を出ていったのが最後、それ以来兄様は帰って来ない。


「あの日…」


あの日、家を出て向かった先は豪華客船。

勿論招待客だけが集う場に、俺達三人も招待されていた。


俺達に付いてくれていた人は、マネージャーさんだったみたいで、その場であの人に会う事はなくて、用意された個室に俺と海は、馴染めない場から逃げて来ていた。


でも、兄様は顔出ししてくると、誰かもわからない人の所へと向かって、家ですら見せない愛想笑いを沢山の人に振りまいていた。


招待客の面々は芸能関係だけにとどまらず、それこそ、一之瀬の名を出せば分かる面々も居たみたい。


俺達二人は、用意された個室で加納さんに逢えたんだけれど…


『ごめんなさい…』


ただただ謝ってくる加納さんに、どう接していいのかもわからなくて…


加納さんから聞かされた本当の話しに、納得する他なくて…


部屋から出て、兄様の元へと3人で向かったんだけれど、そこで会えたのは兄様じゃなくて、父親で…


あの人泣きながら俺達二人抱きしめて…


その時、一緒に暮らしたいって言われたんだ…


けれど、それに対して俺達は答えられなくて…


加納さんも一緒にと言われたけれど…


その場では答えられなかった。


返事は直ぐじゃなくていいって、言われたんだけれど…


その後も兄様とは会えなくて…


俺達だけ先に船を降りるかたちになったから…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る