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梅さんが揚げたヒレカツのにおいが食欲をそそるので、それに反応してお腹の音が鳴るのもかまわずに、水分だけ流し込む。


「で、親父何の話なんだろ?」


兄様が呑気な声で言うものだから、姉様は


「そんなの知らないわよ!もう直ぐ来るんじゃないの?」


最近口を聞く事すら減ってきている俺達が、珍しく集まっているのを見て


「出来ましたよ、運ぶの手伝って下さいまし」


梅さんの声に直ぐさま反応したのは姉様だ。


「お嬢様はこちらをお持ち下さい」


俺も最後に立ったけど、ピンクの物体を抱えていく気にはなれず、クッションと一緒に並べて置いた。後で兄様が持って行くだろう事はわかりきっているから。


食卓と言うべきテーブルいっぱいに並べられた夕食を直ぐ様『いただきます』と、いきたい所だが、それはまだダメそうだ。


時計を見るも親父は帰ってくる気配すらない。

まぁ、普段ならこの時間に帰って来る事もないのだから、仕方ない。

丁度のタイミングで梅さんに持って貰っている電話の着信が鳴った。


キッチンで話し声が聞こえるが、直ぐさま切られた様で…


「旦那様お帰りが少し遅れるとの事ですので先にお食事なさってて下さいとの事です。秘書の浪川様からお電話ありました」


「もう、梅さん浪川にまで様付けしなくていいからね!」


どうやら姉様は浪川が好きではないようだ。


この浪川と言う男、秘書にしておくには勿体ないくらいの出来る男だ。一流大学を出た訳でもなく、ごくごく普通の一般家庭でそこそこの大学を出てはいるが、社交性はもの凄くあり、甘いフェイスが、なお年上のおばさん受けが良い。

そんな彼にも3年間の空白がある。

噂ではアイドルをしていたのでは?

と、言う根も葉もない噂だ。高身長でスタイルも良いとくれば、そう言う噂も流れるだろう。それに親父が気に入るくらい腰の低くさがあるのもわかる。


「いただきます!!」


バラバラに聞こえた『いただきます』の声。


まだ温かいおかずにありつけたのは嬉しい限りだ。


何時もはバラバラに食事を取るのだから、ラップをしてある物を温めてもらって、頂く。

梅さんの部屋になっている所で!


「親父帰ってこないのわかってたら、あっちの部屋で良かったじゃない」


無駄な事が嫌いな姉様らしい発言だ。

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