第86話

辰巳さんにはお母さんがいない。

私にはお父さんがいない。


同じような環境で育ったはずなのにやはり違う。

私は1度も寂しいと思ったことが無いほど楽しくやってこれた。それはきっと真緒という弟の存在も大きかった。


だけど辰巳さんは?一人っ子の辰巳さんには分かち合える人はいなかったのだろう…


「家族をたくさん作りましょう!」


勢いよく放った言葉に一瞬、周りの音が聞こえない程静かになる空気。


「ぷはっ!いきなり何言ってんの?」


辰巳さんは、声を出して笑う。


「あのさ、茉佑。

ありがとな」


丁度信号が赤で停車した為、辰巳さんはハンドルに両手を置いて私の方を見る。


「茉佑と一緒にいると飽きないな」


その私を見る顔はとても優しくて、胸がキュンっとなる。


「辰巳さん、大好きです」


「知ってる」

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