第68話

キャリーケースの取っ手を握り、辰巳さんの横を通り過ぎる。


「茉佑っ!」


「仕事はちゃんとこなしますので、ご心配なく!」


バタンッと音が鳴るほど強く扉を閉めていく。


エレベーターに乗り込むと、自分の頭を抱える。


「あー!言いすぎた…」


と反省しつつも、今更戻るわけにはいかないし…

とりあえず新に電話をする。


『…はい』


「新?あのさ…頼みがあるんだけど」











「そんで、啖呵切って出てきたわけ」


新の事は言わずに、辰巳さんと喧嘩をして出てきたことだけを話す。


「はい…」


「ったく。だから俺は止めとけって言ったんだよ」


新は文句を言いながらも私が寝れるように布団を敷いてくれた。


「ごめん、突然泊まりに来て」


「別にいいけどさ。今日の今日で来るとは思わなかったから…部屋散らかってるのは勘弁んな」


私は首を横に振って全力で否定する。


「昔から新の部屋は綺麗だよ!」


「はいはい、どーもな。

茉佑と同じであんまり物置かないたちなんで」

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