第64話

「…わかった」


しばらくして足音が離れていくのを聞くと、立ち上がってお風呂場に行く。


するとガチャッと洗面所のドアが開き、驚いて振り返ると辰巳さんが慌てて入ってくる。


「茉佑!大丈夫か?」


私に近づくと、両頬を掴む。


「やっぱり泣いてる…」


「ぶつけたから…」


辰巳さんは、黙って私の涙を拭う。


「俺がやるから掃除。リビング行ってな」


「え!?いいですよ!」


だって嘘だもん。足痛くないし…

でもこんなに心配してくれてる。


「ごめんなさい…」


「良いってこんぐらい。謝んなって」


「違うんです!」


「違うって…何が?」


辰巳さんは、私の顔から手を離す。


「さっきの…言葉嫌だったんです…」


「言葉?」


「新と一緒にいた方が良いって」


「あー…」


「好きなんです…辰巳さんの事が」


私は泣きながら下を向いて叫ぶ。

辰巳さんがどんな顔して聞いているのか怖くて見れなかったから。

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