第62話

「どうした?茉佑」


辰巳さんは私の行動に目を丸くして驚く。


「あ、の…辰巳さん。

辰巳さんはどこにも行かないですよね?」


「え?行かねーよ。俺はどこにも」


優しい声、優しい空気。

やっぱり居心地がいい…


「ただ、俺と一緒に暮らすよりも幼なじみくんと一緒に暮らした方がいいんじゃないか?」


辰巳さんの一言で優しい空気がとても重い空気に変わる。


「え?なんで、ですか?」


「いやだって、その方が茉佑も気を使いすぎないし素でいられるし楽だろ?

やっぱり上司と暮らすのはどっかしら気づかって疲れただろ?」


サラりと言われるその言葉に思わず、洋服の裾を離す。


「…今日は本当にすみませんでした。

お風呂掃除してきますね」


くるりと背中を向けて洗面所に歩いていく私は洗面所について扉を閉め、その場に崩れ落ちる。


「近づけたと思ったのに…距離が離れた気がする…」

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