第34話

「あー…緑川水産のお嬢様」


「ですよね…」


やっぱり婚約者。


「でもって俺大学の時一緒だったんだ」


「え?じゃあ婚約しても良いんじゃ…」


「あー」とまた気まずそうに、右頬を描きながら話を続ける。


「友人の1人だったからそういう目で見れないというか、そもそもアイツの手料理とか食べたら…生きていけない。

忘れもしない、あの夏の合宿の日」


「え?何があったんですか?」


何その今から怪談始めます的な始まりは。


「とりあえずアイツが作る料理は宇宙が見えそうなほど不味いって事だ」


「言い切ったよ桜井さん…」


そのまま私を見る桜井さんは、私の肩に手を置く。


「茉佑、もしかして気にしてた?」


「べ、別にそんな事…」


「そっ。あ、これ今日の夕飯代の給料ね」


自分のポケットに入っていた財布を取り出して私に3000円渡してきた。


「あ、ありがとうございます…」


「着替えてくる」


バタンとリビングのドアが閉まったと同時に火を消してその場にしゃがみこむ。

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