第24話 メリークリスマス



イヴが目を覚ますと、なんだか頭がぼうっとして喉に違和感がありました。


辺りを見回すと、クリスマスタウンではなく、元の世界の自分の部屋。どうやらちゃんと帰ってきたようです。


「ゴホ、ゴホ……あれ?ここ、私の部屋……?」


部屋を見回そうにも、なんだか頭はくらくら体はふらふら、意識もぼーっとしてはっきりしません。イヴはやっと、自分が病気だと思い出すのです。


「まえにも、こんなことがあったかしら……」

「あらイヴ、目が覚めたのね!よかったわ」

「ママ?」

「どうしたの不思議そうな顔して?せっかくのお誕生日でクリスマスに風邪をひいちゃうなんて、ちょっと残念ね」

「誕生日?だれの……」

「やあねえイヴったら!あなたのお誕生日でしょう!」


そうだった!イヴは、一瞬で目が覚めました。


「ほら、もう少し寝てなさい。チキンスープを作るから」

「ママ……私、クリスマスタウンにいたのよ」

「クリスマスタウン?」

「毎日がクリスマスで、魔法のごちそうもあって、プレゼントもたくさんで、私、サンタの見習いのお手伝いをしてたの」


ママは、笑いませんでした。


「ママも、そこに行ったことがあるわ。子供の時に」

「ママも?」

「そう。レディって名前を名乗るのにふさわしい女性になりたくて。あの頃はまだ……」


イヴは、不思議な予感に襲われました。点と点が繋がって線になる気がしたのです。


「恥ずかしくて、リース、ってミドルネームを名乗ってたから」

「やっぱり!」

「どうしたの?」

「ホーリーさんが、リースに、ママによろしくって言ってたの」

「ああ、懐かしい……あら、じゃああのリュックは」

「持って帰ってきたの」

「ふふふ。親子でこんな体験をするなんてね。元気になったら、もっとたくさんの話を聞かせてちょうだいね!ママはスープを作ってくるわ」


イヴのおでこにキスをして、ママはチキンスープを作りに行きました。首元に不思議な感覚があって、イヴは手探りでつかみます。


「あ、虹の橋の……」


ニコがくれた、虹の橋の欠片。淡く虹色に光ります。イヴはニコを思い出して窓を見ましたが、今はまだ、レースのカーテンから朝の光が入ってくるだけでした。静かで全体が明るいところを見ると、雪が降っているのでしょう。


「夢じゃ、なかったんだ……」


ベッドには持って帰ってきたリュックがなぜかふたつ立てかけてあって、サイドテーブルには落ちていた砂時計とホーリーさんからもらったマフラーが置いてありました。それらを見て安心すると同時に、色々なことを思い出しました。


「ジンジャー……ジンジャーは!?ジンジャー!!」


返事はありません。確かに手を握っていたはずなのに。ふたつのリュックのうちひとつは、ジンジャーのものでした。イヴは、急いで階段を降りて、キッチンにいるママ、リースの元へ向かいます。


「ママ、ジンジャーを見なかった!?」

「ジンジャー?生姜ならないけど」

「あ、えっと……人間の女の子……たぶん……キャラメル色の髪の毛で、同じ色の瞳で……」

「あ、わかった!誰から聞いたの?」

「え?」


ママは隠しきれないというように笑っていますが、イヴにはちんぷんかんぷん。


「妹の名前ね?」

「妹!?」

「イヴ、あなたお姉ちゃんになるのよ!」

「えぇ!?」

「ジンジャー、ジンジャーね……私たちと共通点があるし、素敵な名前だわ!妹の名前はジンジャーにしようかしら」


イヴは熱のせいだけではないぐるぐるに唸りました。そして、ペンダントのほかに、もう一つ首にあるものを思い出しました。


「ママ!パパから鍵をもらったの。書斎だって言ってた部屋の……」

「わかったわ。一緒に行きましょう」


イヴの体を気遣ってゆっくりと階段を上がり、深呼吸をしてからドアを開けるように言いました。そして、イヴがとうとうドアを開けると……。


「プレゼントの部屋だわ!こんなにたくさん、どういうこと!?」

「パパがイヴに渡せなかったプレゼントたちよ。クリスマスに渡せなかったら次のクリスマスに渡そうって、特別な日だからって毎年たくさん買い込んではこの部屋にしまってたの」

「だから、5年分にしてはいっぱいあるのね……」


イヴは、部屋を見回してあることに気が付きました。どのプレゼントにも見覚えがあるのです。


「クリスマスの本に、テディベア、空の写真集……みんな、私がクリスマスタウンでもらったプレゼントたちだわ!」

「パパの願いが、クリスマスタウンに届いたのかもね」


リースは、そっとイヴを抱き寄せて優しく頭を撫でます。その懐かしい感触に、イヴは目を閉じました。


「私、とっても幸せだわ」

「イヴの幸せが、私とパパの幸せなのよ。もうしばらくしたら、そこにジンジャーも加わるわね」


ふたりはしばらく、部屋の中で幸せを惜しむように過ごしました。


「よし!今度こそチキンスープを作ってくるわ!」

「うん」


イヴは、一人になってもまだその部屋にいました。ここだけ、クリスマスタウンのような不思議な感じがしたからです。


「妹……ジンジャー、なのかな。ほんとにジンジャーだったらいいな。願えば、叶うよね、きっと」


そっと触れた虹の橋の欠片。その淡い虹色の光が部屋中に満ちたような気がした。


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