第19話 ハッピーホリデー
「わ、おいしそう!ローズさん、また上達したんじゃない?」
「お祭りに出す料理を任されるってことは相当よね!」
「やだもう!あんまりほめると調子乗っちゃうわよ!」
「でもほんと、おいしいわこれ」
「自信もっていいわよね!」
「ありがとう、二人とも!私、とっても幸せ……願いが叶ったんだもの」
そりをもらうサンタ、ニコラウス24世の誕生、その両方がおめでたく、連日お祭りでした。
街には白い花が舞い、踊る人や歌う人、ご馳走だって通りに並んじゃいます。街じゅうの人がメインストリートに出て、お祝いをしていました。
「メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
あちこちでお祝いと、音楽と、笑い声があふれています。
「あ、ルーク!」
「よっ」
ルークは、街の人々とチェスをしていました。ルークは相当強いらしく、大人もこどもも、相手をしては悔しがっています。「今のところ負けナシ」らしいですね。
「こらカイ!その駒はそんな動きしねーぞ!」
「いやぁ~、絵しか描いてこなかったから」
いつもは家にいるカイさんも、連日のお祭りでは色々な所へ混ざっているようです。
「ルーク、楽しそうね」
「そうね。まあ、口元しか見えないけど」
「あ、ホーリーさん!ホーリーさんだ!」
イヴは、人混みの中にホーリーさんを見つけて駆け寄りました。
「ホーリーさんこんにちは!」
「やあ、イヴにジンジャー。お祝い事だからと外に出てきたけど、やっぱり楽しいねぇ」
「やっぱり、一人だと寂しくなっちゃうかしら?」
「そうでもないよ。お祭りはたまにあるからこそ楽しいのさ」
イヴは、「クリスマスもそうだなぁ。たまにだから楽しいことって、あるものね」と思いました。
誕生日も、クリスマスも、一年に一度しか来ないからこそ、大事に最高に過ごそうと思うものなのかもしれません。
毎日そうなら、きっと「一日くらい適当でいいや」と思う日もあるでしょう。いつか、大切だったことすら忘れてしまうかもしれません。なくなってしまうその時まで。
「考えなくちゃ」
「どうしたの急に?」
「たった一日のクリスマスを、最高にハッピーに過ごしたいの。それも、私だけでなく」
「イヴ、幸せを見つけたのね」
「うん。そのためには、やっぱり色々準備も必要だし、考えなくちゃ」
「イヴ。相手を幸せにしたいと思う気持ちは、何よりも大切だよ。ここは、クリスマスタウンだからね。そういう気持ちが、すべてを良い方へ導く」
「うん。ありがとう、ホーリーさん!」
イヴは、ほっぺをピタピタと叩いてから、まずはこのお祝いをきちんとしようと決めました。
◆
「ニコ!ナタリー!」
「やあ、イヴ、ジンジャー」
「なにか用?」
「お祝いに来たの!はい、私たちからのちいさなプレゼントよ」
「私は花を集めただけだけどね!」
イヴは、ニコとナタリーへ真っ白な花冠を乗せました。髪の毛の白とはまた違う、ほんの少し黄色や黄緑の影ができる花冠の白がとってもきれいでした。
「ありがとう!」
「……」
ニコは嬉しそうに笑い、ナタリーはもじもじとふくれっ面で、どうやら照れているようです。そして、やっぱりナタリーは悪い子じゃないな、と思うのでした。
「イヴ!と、他数名!」
人混みの中から、チェス盤を持ったルークがやって来ました。
「ちょっとー!他数名ってなによー!」
「やあルーク」
「ニコ、おめでとさん。なあみんな、チェスしようぜ」
「チェスぅ?」
「そ。まあ、わかんなかったら教えるから」
近くのテーブルにボードを広げて、駒を置いていきます。最初はジンジャーと、教えながら、話しながら、チェスを打っていきます。
「こんな大きなお祭りって初めてだ」
「私もよ」
「いろんな人とチェスをしたよ」
「あっ!負けたー!!ルークずるした?」
「してないよ!初めてなんだからしかたない、でもセンスは良いよ。次は……アンタやる?」
ナタリーは首を振ってニコを押し出します。ルークが駒を並べ直し、ニコが座りました。
「思えばおれってバカだったよな」
「照れ屋だっただけだよ」
「いや、バカだった。でも今は、まあ、前よりはマシにはなった気がする」
どちらも少し黙り、コツン、コツン、と駒の動く音が響いています。
「おまえらのこと、友達だと思っていいんだよな?」
コツン、コツン。
「もちろんだよ、聞く必要なんかないさ」
「聞きたかったんだ」
コツン。
「負けちゃった。ルークってば強いなぁ」
「ニコもなかなかだよ」
最後に、イヴが座ります。
「チェスをさ、友達と打ちたかったんだ」
「もっと早く言ってくれればよかったのに」
「いや、時期ってものがある」
コツン、コツン、少し間が開いてコツン。
「おれさ、たぶん、明日帰るよ」
「……え!?」
急にそんなことを言われたので、駒を取り落としてしまいました。それを直しながら、話の続きを聞きます。
「あともうひとつ、願い事があってさ」
「なぁに?」
「みんな、明日一日をおれにくれる?」
「いいけど、どうして?」
「一日中好きなことをして、そんで見送ってほしいんだ」
コツン、コツン、ポタ、ポタ。
「な、なんで泣いてるんだ!?」
「だって、ルークったら相談も前置きもなしに帰るなんて言うんだもの……」
「おれだって急に決めたんだもん、言ったろ、時期があるって。それが、明日なんだってわかっただけ」
「ルーク、帰らないって言ってたのに」
「帰っても大丈夫だな、って思って」
コツン、……コツン。迷いながら、うなりながら、ルークは話します。
「おれさ、むこうで友達いなかったんだ」
「そうなの?」
「まあ、色々あってな。そんで、一生ここで暮らせばいいと思ってたんだけど……もう、大丈夫だと思って」
カツン。
「イヴ、チェスは上手くないって言ったけど強いよ」
「でも、おじいちゃんにはすぐ負けるのよ」
「じいちゃんがよっぽど強かったんだなぁ……ま、そういうわけでさ。明日を俺にくれよ」
「わかったわ」
ルークは、顔が前髪で隠れていてもわかるくらい、嬉しそうに笑いました。
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