第16話 星に願いを



サンタのリーダー、ニコラウス。


リーダーというよりも、サンタの王様だといった方がいいかもしれませんね。


どのサンタがどの家にプレゼントを届けるのか決めたり、キャベツの花から生まれた赤ちゃんに名前を与えたり、みんなの家の場所を決めて家を建てたり、冠婚葬祭を執り行ったり、街じゅうのベツレヘムの星を光らせたり、深夜0時のベルを鳴らしたり、とくべつなサンタへそりを与えたり、もう本当に色々!


実は、クリスマスタウンで一番忙しいのは、サンタの王様だったりするのです。


「ニコ、最近忙しそう」

「うん……サンタのリーダーってやることが多いから、その分勉強もたくさんあるんだ」

「そっかぁ……でも、少し、眠った方がいいんじゃない?」


ニコの目の下には、うっすらとクマができていました。サンタの見習いの仕事が終わってから少し勉強して、最近は朝でも昼でも、屋台やイヴたちと遊ぶのを控えて勉強しています。だから、ほんの少ししか寝られないのです。


「どうしてそんなに頑張るの?今にも寝そーじゃないの」


今日はみんな、なんだかやる気が出ないらしく、なんとなくでお休み中のニコの屋台に集まっていました。ジンジャーは、ゆらゆらと揺れるニコを面白そうにつついています。


と、その時でした。


「あっはははは!ねぇナイト、眠いならずぅ~っと寝てたら?あなたがどれだけ頑張ったって、本当にニコラウス25世を襲名するのは私なんだから!」

「あんただれ!ナイトってだれ!」

「どうしてニコにひどいこと言うの?」

「ナイトってニコなの!?」

「ナ、ナタリー!」


ナタリー、と呼ばれた女の子は、その長くなびかせた白い髪の毛を払いました。どこか、ニコと似ているような気がします。


「誰なの?」

「あの子は、ナタリー。ナタリー・ニコラウス……僕の、双子の妹なんだ」

「えぇー!?」


なんと、ニコには双子の妹がいたのです。


「ふん、たかだか同じキャベツから生まれただけじゃないの。私はサンタとしてもすばらしい実績を残してるし、ニコよりもすごい魔法だって使えるんだから、私がニコラウス25世を名乗るべきよ」

「ねえニコ、サンタのリーダーって、女の子でもなれるのかしら?」

「もちろん、過去に何人もいたからね。サンタとして優秀であれば、大人も子供も、男も女も関係ないんだ」

「じゃ、ニコラウスじゃなくてもいいんじゃないの?」

「そうだね、でも、結果的にニコラウスが継いでるだけで、もしもっと優秀な人が出てくればその人になると思うよ」


ニコたちが輪になって話すのを、少し離れたところから面白くなさそうにナタリーが見ていました。


「フン、パパがリーダーをする暇もなく私が継いでやるんだから。ニコ、あんたの出番はなしよ!一生屋台でもやってなさい!」


それだけ言うと、ナタリーは空を飛んでどこかへ行ってしまいました。


「なによあれー!ルークみたいな子ね!!」

「おれ、あんなんか?」

「ニコ、あの子もニコラウス25世なの?」

「うん……というか…………そうだね……」


ニコは、眠いのと悲しいのと上手く言えないのとで頭がぐるぐる回り、とうとうその場に倒れ込んでしまいました……。



ニコは、小さな頃の夢を見ました。まだ、ナタリーと仲が良かったころの夢です。


こうなってしまったのは、きっと自分のせいなんだろうと思い、目が覚めました。


「あ、ニコの目が覚めた!イヴー!ニコが起きたよー!!」

「う~ん……あれ、イヴの家?」

「そうよ。ニコの家がわからなかったから、とりあえず私の家に運んだの」

「ごめんね……」

「なあニコ、おまえらってニコラウス25世の座をめぐって争ってるのか?」


ナタリーの口ぶりによると、ニコラウスは一人だけのようでしたからね。


「いや……上手く言えないんだけど、そうではないんだ。僕は、ニコラウスに『ならなければならない』。というより、ナタリーをニコラウスにするわけにはいかないんだ」

「どういうこと?」

「ナタリーはたしかに優秀だ。すごい魔法だって使えるし、頭もいい。でも…………なんて言えばいいんだろう、心がそこにないんだ」

「心が、ない?」

「ナタリーにとって、サンタは作業でしかないんだ。なるべきもので、やるべきこと。人々を幸せにしようとか、そういうんじゃないんだ」


ニコは、辛そうでした。


「だから、ナタリーをニコラウスにしないように、僕がニコラウスにならなくちゃいけないんだ。でも、ナタリーがニコラウスになろうとするのは、僕のせいでもあるんだ」

「ニコのせい?」

「全然関係ないけど、ニコってナイトって名前なのね」

「え、うん……。でね、ナタリーがそうするのも無理はないんだ。だって…………僕が昔、ニコラウスには、いや、サンタにはなりたくないって言ったから」


みんな、叫びました。朝も昼も夜もサンタの仕事をしているニコが、サンタをやりたくないと言うのですから、それはもう大きな声でした。


「ちょっとみんな、落ち着いて……サンタの仕事が嫌いというわけじゃないんだ。でも……もっと、選べてもいいんじゃないかと思うんだ」

「えらぶ?」

「お店や工房や牧場、みんな、生まれた家に従っている。でも僕は、サンタの家に生まれたからってサンタになるのは嫌なんだ!……それを小さい頃に言ってしまったから、ナタリーは僕の代わりにニコラウスを継ごうとしているんだ」


ニコのために始めたことが、ニコへの意地悪になってしまっては意味がありません。


「ナタリーと、ちゃんと話し合った方がいいわ」

「私たちもついててあげるから!」

「まあ、主審は必要だよな」

「ありがとう、みんな……ナタリーを探すの、手伝ってくれる?」

「わかったわ!」



ナタリーは、ルドルフさんのトナカイ牧場にいました。


トナカイたちはバケツを持ったナタリーには近寄らず、ルドルフさんは困ったようにトナカイたちにごはんをあげていました。


「ナタリー!」

「ナイト……!?」

「君と話しに来たんだ。ナタリー、僕のためにニコラウスになろうとしなくていいんだ。僕があの時、君に押し付けてしまったんだよね……本当に、ごめんよナタリー」


十数年もの時が積み重なった「ごめん」はとても重く、関係のないイヴたちの心を痛めるほどでした。それはナタリーにも伝わったようで、くしゃりと顔をゆがめました。


「ちがう、ちがうのよナイト……!私はあなたを利用したのよ!!」

「利用した、って……どういうこと?」

「私は、物心つく頃から、ずっと不安に襲われていたの……。ニコラウスを継げるのは一人だけ……残った方は、ニコラウスの家に生まれながらニコラウスになれなかった落ちこぼれ!だから、あなたがサンタをやりたくないと言った時、チャンスだと思ったのよ!」

「ナタリー、僕は……」

「なのに、あなたは当たり前のようにサンタを始めて、頭角を現していった……それが私をどれだけ打ちのめしたか!!あなたに、私の絶望がわかる!?25世と呼ばれるのはいつもナイトの方!私がサンタをすることなんて、まるでなんでもないことのように扱われる……私は、ナイトを憎まずにはいられない!!」


心を裂くような悲鳴だった。


「でもニコは、ひとを幸せにしたいと思ってるわ」

「…………」

「きっと、サンタじゃなくてもそう思ったわ。お店屋さんでも、何かを作る人でも、ここに生まれていても。みんなだってきっとそう。誰だって誰かの幸せを願うのよ」


ここは、願いと幸せで出来ている街だから。


「あなただって、最初はきっと、誰かを幸せにしたかったはずよ」

「どうかしら……」

「ナタリー、僕だってサンタになった以上、中途半端な気持ちでサンタの仕事をしているわけじゃないよ」

「私だって、いつだって真剣にやってるわ!!」

「サンタは人を幸せにする仕事だって、わかってほしい」

「…………わかってるわよそんなこと!!いいわ、こうなったら正々堂々勝負よ。どっちがニコラウスになっても恨みっこなしよ」

「ナタリー……!」

「私は私の思うサンタを貫くし、25世を名乗るのも私よ!!ナイトなんかに負けないから!!」


そう言うと、また空を飛んでどこかへ行ってしまいました。


「仲直り……なの……?」

「そうだね。ナタリーなりの仲直りだよ」

「ニコ、ニコラウスを目指すの?」

「うん。ナタリーにああ言った以上、ナタリーの想いのためにも手は抜けない」

「そっか……私たちにできることがあったら、何でも言ってね!」


イヴはひっそりと思いました。


(ニコがナタリーの想いのために夢をあきらめるのは、ニコにとって幸せになるのかしら……)


できれば、ニコもナタリーも、どっちも幸せになるといいなと、空の星に願いました。


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