第14話 ニコのいない夜



「えぇーっ!今日の夜、ニコいないの!?」

「うん。もう子供じゃないし、そろそろ、そりを貰えるサンタになれるように頑張ろうと思って」

「そっかぁ……ニコの夢だもんね」

「……うん、まあ。ニコラウス25世だしね」


まだ日が高いのに屋台を片付けていると思ったら、ニコは用事があるようです。


「プレゼントは用意してあるから、僕の代わりに配達だけお願いしてもいいかな」

「ええ、もちろん。ニコが頑張ってるんだもの、私もサンタを頑張るわ!」

「ありがとう。じゃあ、ちょっと行ってくるね」

「まかせて!」


とはいうものの、一人でプレゼントを配達するのは初めてで、しかも、今日はニコの魔法がありません。どうにか、自分で家の中に入らないといけません。


「どうしよう……」

「玄関先にでも投げ込んどけばいいだろ」

「あんたん家はそれでいいんでしょうけどね」


あの意地悪だったルークも、今では普通にイヴと話してくれます。


「呼び鈴を鳴らすわけにはいかないわよね。でも、そしたら、鍵がしまってたらおしまいだわ……」


三人はうんうんとうなって、なんとかニコのいない夜をうまくやろうと相談しました。


「よし!わかった!三人で行けばいいのよ!」

「おれも入ってんのかそれ」

「三人で行っても、鍵がかかってたらおしまいじゃないかしら……」

「大丈夫!どうしてもだめなら窓を割るわ」

「だめだよ!私たちが何かしたら、ニコに迷惑がかかっちゃうわ」

「おまえホント凶暴だよな」

「じゃあなんかいい案出しなさいよ!!」

「……誰でも一回は外に出るんだから、メモでも書いて玄関に置いとくしかないだろ」

「そっかぁ……」


三人集まっても、いい案が出てきません。星が光り出すまで時間はたくさんありますが、これじゃあいつまで経ってもぐるぐる回るだけ。


困った時は、そう。





「暇かって言われてもねぇ」

「暇でしょ!」

「あのねぇ、暇かって言われたら暇じゃないけど、時間を作ってほしいと言われたら時間を作ることはできるよ。その状態が暇か暇じゃないかと……」

「はいはい暇なのねおじゃましまーす」

「口うるせえ男だな」

「ごめんねカイさん。でも、頼れる人が他にいなくて……」


なんせ街のなかに家がありますからね。ニコの屋台からそう歩かないところにあるといったら、それはもう。


「新顔がいるけど」

「この子はルーク。新しいお友達なの。この子も私と同じ世界から来たのよ」

「へぇ。じゃあ三人とも同じ世界から来たんだね」

「三人かしらね」

「おや、ジンジャーは違うのかい?」

「しらじらしー。さ、要件を済ませましょう!」


イヴは、ジンジャーとカイさんはあまり仲良くないのかな?と思いました。けんかしてるわけでもないので、今はそれについて話し合いはしませんが。簡単にいま困ってることを伝え、カイさんの返事を待ちます。


「お悩み博士じゃないんだけどなぁ……まあ、サンタはたくさんいる上に、その袋の中身は多くない。一件ずつ他のサンタに頼むのが最善だろうね」

「そうじゃなくて、私がプレゼントを配達したいの。私だってサンタだから。見習いの、お手伝いだけど……」

「難しいねぇ……君たちはまだ子供なんだから、他の人に頼ることを覚えるのが先でもいい気がするけど、それじゃあ納得しないだろうね……」

「納得しないから早く教えなさいよ!!もったいぶらないで!!」

「イヴさぁ、よくこんなんと仲良くしてるな」

「君達、好き勝手言うねぇ……」


ジンジャーとルークが邪魔してなかなか話が前に進みません。お日さまはもう真上まで来ています。


「ニコが私に頼んだのは、私を信じてるからだと思うの。だから、私、ちゃんと頑張りたい。まかせてって言ったのに他のサンタに頼むんじゃ、ちょっと違う気がする」


そうです。ニコは、自分がいないから他のサンタに頼むのでなく、イヴにお願いしたのです。


「しょうがないなぁ。じゃあ、一階のどこかの窓を開けてあげるから。それならいいんじゃないかな」

「うん?開ける方法を教えてくれるんじゃないの?」

「いやぁ……これはさすがにねぇ…………。ね、一緒に行ってあげるから、イヴはプレゼントを置くだけでいいよ」

「ありがとう、カイさん!頼ってよかったわ!」

「いいよ、出るの夜だし」

「?」


イヴとカイさんが今日のサンタをすることになったようです。



「はい、開いたよ。静かに入ってね」

「うん……」


イヴは一階の窓をよじ登り、部屋を探してプレゼントを置き続けます。


(カイさんもこの街の人なのよね……?もしかしたら、カイさんも魔法を使えるのかもしれないわ)


「カイさんも魔法が使えるの?」

「ん?いやぁ、どうだったかなぁ」

「でも、しまってた窓の鍵があっというまに開いたわ」

「いやぁ、どこも古い家だからねぇ……そら、次だ」


カイさんはどうやっているのか、手をかざしただけで鍵を開けて、窓を閉めただけで鍵を閉めます。イヴには、魔法を使っているようにしか見えませんでした。詳しく見ようとのぞき込んでも、やんわりと隠されてしまいます。何か魔法を使っているに違いない、と確信しました。


「次で最後だね」

「ええ……ねえ、カイさん。こんなに遅くなっちゃってごめんなさい。私が魔法を使えないばっかりに、たくさん時間がかかってるわ」

「玄関に放らないだけいいじゃないか。プレゼントは、心がこもってるほどいいからね」

「カイさん、ちゃんとプレゼントもらってる?」

「もらってるよ。今日は、毛糸柄のティーセットだった」

「毛糸柄のティーカップ……?」

「昨日は黒猫が歩いてる柄のクッションカバー」

「そ、そうなの、よかったわ」


イヴにはよくわかりませんでしたが、カイさんが前よりも少し嬉しそうだったのでいいかな、と思いました。


「よし、開いた。さ、最後の配達に行っておいで。小さなサンタさん」

「ありがとう」


みんなイヴのことを子ども扱いするけれど、10歳ってことは20歳の半分。20歳は大人ですから……やっぱりこどもですね。イヴも、自分はまだこどもね、とうなずきました。


さいごのプレゼントは、生まれたばかりの赤ちゃんへです。ふわふわのくつしたが入った真っ白いプレゼント。それを、赤ちゃんの眠るこども部屋へそっと置きます。イヴは、初めてのプレゼントも生まれたばかりの赤ちゃんへ届けたことを思い出していました。


なんだか、ずっと昔のことのように思います。ずいぶんと、遠くへ来たような気がしました。


「私にも、ちゃんとサンタができたわ」


カイさんに窓を閉めてもらって、サンタの仕事が終わりました。


「おつかれさま、イヴ」

「ありがとう、カイさん。サンタってやっぱり大変ね。ニコがどれだけすごいのか、私、実感しちゃったわ」

「サンタをやめちゃうかい?」

「どうして?私、サンタのお仕事好きよ。ニコのお手伝いしかできないけど」


しばらく歩いてからカイさんがいないのに気付いて、振り返ります。クリスマスツリーがキラキラしていますが、ちいさな光なのでカイさんの顔が見えません。今日は雪も降っていないので、余計にです。


「カイさんどうしたの?」

「大変なことでも、それでも好きだと思えるんだね」

「そうね。大変だけど、楽しくて好きよ」

「そっか。イヴはえらいね」

「えらいかしら?ひとりじゃできなかったのに」

「えらいよ、イヴは」


カイさんは、イヴの頭を撫でて先に行きます。イヴは、立ち止まったり先に行ったり忙しいなあと思っていました。


それからニコの屋台の前で分かれて、家へと帰りました。



「昨日はありがとう。とっても助かったよ」

「ううん、私ひとりじゃとても無理だったわ。私ね、ニコがどれだけすごいのか改めて気付いたわ」

「えぇ、僕すごいことしたかなぁ」

「すごいのよ、ニコは!」


次の日、屋台にいたニコをみつけると、イヴは昨日思ったことを言いました。ニコに直接言いたいほどそう思ったのです。それから少し話をして、気になっていたことを言いました。


「ねえ、カイさんも魔法が使えるのね?昨日窓を開けてもらって、とっても助かったのよ」

「ん?え、魔法って、カイさんが?」

「そうよ?この街の人は、サンタじゃなくても魔法が使えるの?」

「あれー……?いや、うん、どうだろね!僕もよくわかんないや!」


イヴは結局、カイさんが魔法を使えるのかわからないままでした。


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