第3話 必要なモノ は ほしいモノ?


「イヴ、なかなかサンタっぽく見えるよ」

「ほんと?ニコがこれをくれたからだよ!」


ニコがきのうくれたプレゼントには、サンタの服が入っていました。すその長い、ワンピースのような真っ赤なコートには、あちこちに白いふわふわがついています。ぼうしもズボンもおそろいで、ブーツとベルトは黒。イヴは、着ているだけで自分もサンタになったような気がして、体だけでなくこころまでぽかぽかしてきました。クリスマスタウンはきょうもクリスマス。なんてステキなのでしょう!


イヴがにこにこ顔なのに、ニコはなにやら手にもった紙を見てむつかしい顔をしています。イヴは首をかしげました。


「ニコ、どうしたの?」

「うん、プレゼントをえらぶのにこまってる人がいるんだ」

「プレゼントをえらぶのにこまってる?」


イヴがさらに首をかしげると、ニコは持っていた紙を見せてくれました。


そこには、たくさんの人のなまえと、家の場所と、ほしいものが書いてありました。その中で、ほしいもののところになにも書かれていない人がひとりいました。いいえ、正しくは、なんども書いたり消したりしたアトがあるのです。


「このひとは、ほしいものがたくさんあるの?」

「そうじゃないよ。その人はね、必要なものしか願わないんだ」

「必要なもの?それじゃいけないの?」

「だって、クリスマスプレゼントに食器をあらうせんざいや、こしょうがひとかんほしい、だなんて!どうしても必要なものでもないんだよ!クリスマスプレゼントなのに!」


イヴも、ニコの言いたいことがなんとなくわかりました。


「とくべつなお菓子ですらない、まいにちつかって、それで、きえていくんだよ!なくなったらマーケットなんかですぐに買えるのに!」

「そうねぇ。キッチンタオルとか、ラップとか、クリスマスプレゼントってかんじがしないものね」


いわゆる、消耗品、というものですね。みんなのおうちにもあるのではないでしょうか。食器や洋服の洗剤とか、ティッシュペーパーとか、トイレットペーパーとか、輪ゴムとか、なにかを入れておくビニールのふくろとか……。それはたしかに「ほしいもの」なのでしょうけれど、クリスマスというとくべつな日にはなんだか、ちょっとさみしい感じがします。


「まいにちクリスマスプレゼントをもらうから、ほしいものがなくなっちゃったんじゃないかしら」


だって、まいにちがクリスマスなんですもの。1日1つ、ほしいものをもらっていたら、きっとすぐに、ほしいものがなくなってしまうのではないでしょうか。それに、部屋がプレゼントでぎゅうぎゅうになってしまうかもしれません。それはよくありませんね。プレゼントの海なんて、ちょっと痛そうです。


「ほしいものは、おもちゃやお菓子だけじゃないんだよ」


ニコは、やさしくいいます。おもちゃやお菓子だけじゃない、というのは、いったいぜんたいどういうことでしょうか。


「クリスマスは魔法だからね。びょうきをなおしたり、かぞくを会わせてあげたり、そういうキセキもプレゼントなんだよ」

「そうなの?すごい!」


イヴがもうすこし小さかったころ、クリスマスなのに忙しかったパパの仕事が、急におやすみになったことがありました。1日ずっと、家族いっしょにいられたのです。イヴもママもパパも、キセキだといってとってもよろこびました。もしかしたらあれも、本当のサンタさんからのプレゼントだったのかもしれません。


「それにしても、プレゼントでおへやがいっぱいになったりしないの?」

「ならないよ?どの家もプレゼント用の部屋があるし」

「おへやがすぐにうまっちゃわないかしら」

「プレゼントの部屋はプレゼントがいくらでも入るんだよ」

「……ふしぎねぇ」


この街はふしぎなことばっかり。きっと、なにもかもがふしぎや魔法ででできているにちがいありません。


「プレゼントって、ぜったいあげなきゃいけないものなの?」

「だって、クリスマスだよ!?クリスマスにはプレゼントっていうきまりがあるんだ!」

「そうなんだ。なんだかたのしいばかりじゃないみたいだなあ……」

「ほしいものがまったくないひとなんていないんだよ。だからいっしょにさがしにいこう」

「わかった!」


だって、イヴにもまだまだほしいものがあります。春の色をしたスニーカーだってほしいですし、緑色のリボンをむすんだ白いテディ・ベアも、おおきなボトルに入った色とりどりのジェリービーンズもほしい。ほしいものは、いくらでも浮かんできます。


イヴとニコは、ほしいものがないといっていた「カイ」さんのおうちまで、様子を見にきました。


カイさんは、絵を描いてそれを売っているひとでした。窓から中を、見てみると、いろんな色の絵の具が、へやじゅうのそこかしこについています。まるで、パーティーのあとみたいです。カイさんの絵はだれかのプレゼントにもなるんだ、とニコが教えてくれました。


魔法で絵を描いているのか、カイさんが持っている絵筆のほかに、空中に浮いたいくつもの絵筆も絵を描いています。カイさんは触ってもいないのにです。魔法の絵筆はあっというまに絵を完成させ、キラキラしながら空のむこうへと飛んでいきます。きっと、だれかのプレゼントになるのでしょう。


「きみたち、だれだい?」


窓からのぞいていたふたりは、カイさんに気づかれてしまいました。


カイさんがこっちへおいでと手まねいてくれたので、イヴとニコはカイさんの家におじゃましました。ばれてしまってはしかたない、ニコは正々堂々と、カイさんにきいてみることにしました。


「どうしてほしいものを書いてくれないの?」


カイさんは、目をまんまるにしました。おどろいているようです。


「だって、ほしいものはぜんぶもらったもの。いつでもあたらしいかおりの、減らない絵の具とか、思ったとおりに描いてくれる絵筆もかぞえきれないほどにもらった。元気も、健康も。だからもう、もらうものがないんだよ。絵を描ける、それだけでいいんだよ」


イヴは、なんだかむつかしいなと思いながら、カイさんがいれてくれたホットチョコレートをちょっとのみました。


「ああでも――」


カイさんは、すこし残念そうに言います。


「絵を描く時間はもっとほしいな」

「いまだって1日じゅうかいているでしょう!」


ニコは飛び上がります。まいにちまいにち、ほとんど1日ずっと絵を描いて、それでも絵を描く時間がたりないだなんて!


イヴは、ごちゃごちゃしてるへやのなかを見て、いいことを思いつきました。


「まずはおへやのそうじが必要よね!」


そうです。ぬいだままの服や読みっぱなしの本、使ったままの食器に、失敗してぐしゃぐしゃにしたと思われる紙くずがそこらじゅうに落ちています。


「え~……掃除なんてしてたら絵を描く時間がなくなっちゃうよ。困ってないし、このままでもいいじゃないかぁ」

「だめよ、きたないもの」

「そうだ!きょうはもうおそいからまにあわないけど、あしたにはおそうじロボットをプレゼントにしたらいい!」

「おそうじロボット?」

「カイさんのかわりにおそうじをしてもらえるでしょ?」

「それはいいね!」


ああ、街じゅうの星がかがやきはじめました。夜がくるのです。


「じゃあ、きょうはわたしたちが、すこしおそうじしてあげましょう」

「そうだね、それがすばらしいプレゼントになる!」


イヴとニコは、きょうの配達を終わらせてから、カイさんのおうちを大掃除しました。


燭台に山盛り固まった蝋を取って、カーテンのようになっているクモの巣やほこりだらけの天井をきれいにして、カベや棚、つくえもいすもベッドもきれいにします。もう夜だから、お洗濯はあしたですね。たくさんたまった食器もごみもかたづけて、さいごはふかふかのカーペットくらいにつもった床のほこりをきれいにして、モップをかけます。


さあ、見違えるようにきれいになりましたよ!まるであたらしい家になったみたいですね!


ほかの部屋やお風呂にトイレは、あしたのおそうじロボットにおまかせ。ぜーんぶやってたら朝になっちゃいますからね!


「やあ、じぶんのへやじゃないみたいだ!ニコもイヴも、とってもすてきなプレゼントをありがとう。またあそびにきてね!」


カイさんは、イヴたちがここへきたときよりもすてきなえがおになっていました。かえりみちのほしぞらも、なんだかいつもよりきれいにみえます。


「だれにでもすてきなプレゼントはあるんだよ」

「そうじって、ひつよう、じゃない?」

「いいや、カイさんはきょう、ぼくたちというともだちをプレゼントにもらったんだよ」

「ともだち!それはとってもすてきなプレゼントだわ!」

「またカイさんのところにあそびにいこうね」

「うん!」


イヴはそこで思い出しました。


「ともだちもおそうじロボットも、りょうほうもらったら、こんどこそほしいものがなくなるんじゃないかしら?」


ニコは笑っていいます。


「みんな、よゆうができるとほしいものをかんがえることだってできるんだよ。カイさんだってきっと、あたらしいほしいものがうまれてるはずさ」

「そういうものかしら」


ニコの言う通り、カイさんはそれからきちんとじぶんのほしいものを願い始めたのでした。



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