第2話 イヴナイトとメリークリスマス


日が暮れてイヴが家に帰ると、また驚くべきことが。


「ごちそうがふえてる!それにまだあたたかいわ!」


食べたはずのごちそうが、新品まっさらにもどっているではありませんか!それだけでなく、いくつか増えています。


「これも魔法なのかしら……魔法のごちそうは、食べても大丈夫……よね?」


だって、いちど食べましたからね!きっと大丈夫、街を歩いておなかもすいたし、ディナーを食べることにしましょう。大丈夫だってわかったから、ブランチのときよりもたくさん食べます。あたたかくておいしくて、イヴはひとりぼっちだけど幸せなきもちになりました。


お風呂もはみがきも問題なし。ほかほかになってあとは寝るだけです。


「あしたには、もとのおうちにもどれるかしら。それとも、ここであしたも、クリスマスをすごすのかしら」


まどの外の大きな木にキラキラした何かで書かれた「クリスマスイヴ」。夜にはクリスマスイヴになって、また明日にはメリークリスマスで、その夜にはまたクリスマスイヴになって……。


それをずっと考えていると、イヴはすっかり眠ってしまいました。



つぎの日、目がさめるとまず、つめたく澄んだ空気に気が付きました。冬の空気って、どうしてこんなにあたらしい気がするのでしょう。イヴは慌てなかったので、リビングを見回してクリスマスツリーの下を確認しました。今日もプレゼントはありました。やっぱりどうやら、まだクリスマスタウンにいるようです。キレイなメタリックブルーのラッピングを開けると、クリスマスの物語が書かれた本が出てきました。げんざい、かこ、みらいのお話に、おくりもののお話、くつ屋さんのお話や”かね”のお話が書いてありました。


「クリスマスのおはなしって、こんなにたくさんあるのね」


イヴは本を読みながらゆっくりごちそうを食べると、プレゼントの箱にあったポシェットに、またチョコレートやキャンディとプレゼントの本をつめこんで出かけました。なんだかわくわくしています!


るんるん気分で街を歩いていると、きのうは気がつかなかったことに気がつきます。


「わあ!街路樹がぜんぶクリスマスツリーだわ!きらきらしてる!」


キラキラやオーナメントやジンジャークッキーで飾られたクリスマスツリーが、街じゅうに生えていました。ベツレヘムの星も、ちゃんとあります。道行くひとたちも幸せそうで、イヴも楽しいきもちになりました。でも、すぐに思います。


「わたしは、どうしたらいいんだろう」


ひとりぼっちでクリスマスを楽しむのにも限界があります。することも、やらなきゃいけないこともないから、どうしていいのかわかりません。ごちそうを食べてプレゼントをあけて寝るだけじゃ、ぶたさんになっちゃいます。


「かえりみちもわからないし、なにをしたらいいかもわからないわ」


なんだか、お菓子の入ったポシェットがずいぶんと重く感じられます。イヴは、迷子になったときのような心細いきもちになりました。実際問題、迷子みたいなものですものね!


イヴがそうしていると、屋台の方から声をかけられました。イヴより少しだけおとなの、男の子でした。


「どうしたの。しあわせそうじゃないね」

「あなた、だあれ?」


真っ白な髪の毛に晴れた日の空のような瞳、赤いコートに赤いぼうし、黒いブーツの男の子。


「あなたも、サンタさん?」


そう、まるでサンタさんそのものだったのです!毎日がクリスマスの街には、こどものサンタさんもいるのでしょうか。


「ぼくはニコ。サンタのみならいだよ」

「サンタさんのみならい!」

「そう。魔法をれんしゅうしたり、お菓子やおもちゃを売ったり、いろいろするんだ」

「魔法!えっと、ニコ、魔法がつかえるの?」

「まだかんたんな魔法しかつかえないけどね。きみはだれ?」

「わたしはイヴ・ホワイト!ここじゃないところからやってきたみたいなの」

「ここじゃないところって?」

「まいにちがクリスマスじゃない街にすんでたのよ。ねんにいちどのクリスマスの日に目がさめたら、ここにいたの」

「クリスマスが年に一度だって!!」

「そうなの。わたし、ねむるまえに、毎日クリスマスだったらいいなって思ったの。そして目がさめたらこの街にいたの」

「じゃあきみはクリスマスに選ばれたんだ!」


なんだかニコとお話しているとびっくりすることばかりだわ、とイヴは思いました。


「クリスマスに、えらばれた?」

「そう、きみがクリスマスをだいすきだから、きっとクリスマスがこの街にきみをつれてきたんだよ」


クリスマスがつれてきたんですって!まるでクリスマスが生き物みたいだわ、とイヴは思いました。そして、ニコと友達になれそうな気がしたので、もう少し話してみることにしました。


「ねえニコ、わたしがサンタさんのお手伝いをしちゃいけないかしら」

「悪いわけないよ!いいにきまってる!」

「じゃあね、ここにいる間ニコのお手伝いをさせてほしいの!」


ニコはあごに手を当てて少し考えると、にっこりと笑ってうなずきました。


「わかった!きみには、夜の配達を手伝ってもらおうかな!」

「はいたつ?」

「プレゼントの配達さ!まだみならいだから、プレゼントは歩いて持っていくんだ」

「わかった!」


イヴは「サンタさんのみならいくんのおてつだいちゃん」になりました!


「じゃあ、夜にベツレヘムの星が光ったらここに集合だよ」

「わかったわ!」


もう、星が光るくらいではおどろきません。


「イヴは来たばかりだし、星が光るまで、もう少し街を見てくるといいよ」

「ありがとう!街をまわってみるね!」


ニコにあいさつをして、イヴは歩きだします。みんな、レンガと木で作られたなつかしい感じのする家。出窓にはリースだけでなく、きれいなお花がかざられているところもたくさんあります。街はどこも、甘い香りとクリスマスソングで満たされていました。


歩いても歩いても、街のはしっこへはつきません。もしかしたら、国のようにものすごぉく広い街なのかもしれませんね!イヴの街には電車がありましたが、ここにはなさそうです。歩くしかないのです。


「はあ、はあ、はしっこまで来てないのにつかれちゃったわ。またおなじくらいあるかなきゃもどれないなんてしんじられないわ!」


そう、イヴの家はニコの屋台よりも「あっち」なので、もっとずぅっとあるかなければなりません。さあ、たいへんです。ポシェットのお菓子をたべて元気を補給しました。また、歩きだします。





日が暮れて雪が降りだすと、そこかしこに生えているクリスマスツリーの星が光りだしました。約束の時間がきたのです。


「ニコ、おまたせ!」

「メリークリスマス、イヴ!さあ、そろそろ配達にでようか」


ニコは、大きな白いふくろをもっていました。こうしていると、本当のサンタのようです(本当のサンタなのですが)。イヴとニコは、ならんで歩きはじめました。


「まずは、きょう赤ちゃんの生まれたいえに、赤ちゃんの服をとどけにいいくよ」

「うん!」


黄色いレンガの道をなぞり、きょう赤ちゃんがうまれた家のえんとつから中に入ります。


「かってに入っていいの?」

「サンタだからね」


サンタだからいいのです。入らなければプレゼントを置けませんからね!


すやすやと眠る赤ちゃんの枕元にプレゼントを置き、その家族へもプレゼントを置きます。


「これでよし。次にいこう」

「みんなよろこんでくれるといいね」

「よろこんでくれるさ」


プレゼントの配達は、時計の短い針が2回まわるころにおわりました。


「これでもうおわり?ほかのおうちにはプレゼントはないの?」


それを聞くと、ニコは声をあげて笑いました。


「サンタやサンタ見習いがなんにんいるとおもってるの!」

「5にんくらい?」

「この街のはんぶんちかくはサンタやサンタ見習いだよ」

「そんなに!」

「おとなの男のひとはほとんどサンタになるからね」

「女のひとのサンタはいないの?」

「いるけど少ないんだ。魔法でプレゼントを作ってるほうがおおいし」

「なるほど」


つまりこの街のおとなは、サンタになるかプレゼント作りをするかになるのですね。クリスマスの街ってふしぎ。


「じゃあニコ、またあした」

「あ、まって!」


帰ろうと背をむけたのに、ニコが呼び止めます。


「これは、きみのぶん」


すっかりしぼんだふくろから取りだされたのは、ピンク色の大きな袋。どうやらきょうのイヴのプレゼントのようですね。


「うわあ、ありがとう!」

「ちゃんと、明日のあさにあけるんだよ」

「わかった!それじゃあおやすみなさい!」


イヴは、やることができたのと、あしたのプレゼントが楽しみなのとで、すぐには眠れませんでした。


あしたの朝が楽しみですね。


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