クリスマスタウンへようこそ!

海良いろ

第1話 メリークリスマス!


イヴは、明日クリスマスがきたら誕生日の、もうすぐ10才になる女の子です。枕元にはプレゼントを入れる靴下がふたつ(だってお誕生日もあるんですからね!)と、サンタさんへのジンジャークッキーにミルク。ママと一緒に作ったから、おいしいということは知っています。イヴもつまみぐいしましたからね!パステルカラーのお砂糖飾りが、クリスマスが特別な日だということをよりいっそう感じさせます。


イヴは、サンタさんが本当はパパやママだということも勘付いていますが、自分のためにすてきなプレゼントを選んでくれるので目をつむっています。ああ、イヴはいい子にしているのに、どうしてサンタさんは来ないのでしょう。どうして誕生日やクリスマスは、年に一度しか来ないのでしょう。


サイドテーブルの砂時計を、くるくると回します。手がすべって、たおれてしまいました。


「はぁ、毎日が、本当のサンタさんのいるクリスマスだったらよかったのに」


砂時計はたおれたまま。イヴは、そう呟いて眠りにつきました……。





つぎの日の朝、いつもイヴを起こしにくるママの声がしません。その代わり、にぎやかなクリスマスソングと鈴の音、そしてとってもおいしそうな香りがイヴのところにまで来ています。


「ああ、クリスマス、クリスマスなんだわ!」


きっとリビングでは、ママがもう、ごちそうを並べているにちがいありません。あまい香りもするので、お菓子も並んでいるのでしょう。きっと力作です。だってママは、なにか夢中になることがあると、いつもイヴを起こすのを忘れてしまうのですから!


「メリークリスマス!」


そう言って、あわててリビングの扉を開けたイヴは、びっくりぎょうてん、目をまんまるにしてしまいます。


なぜって、大きなテーブルにところせましと並べられたごちそうに、大きな大きなクリスマスツリーに、いままでもらったのよりずっと多いプレゼントが置いてあったのですから!


なにもかも、イヴの家とは大違いです!


「あら、まって、ここはわたしのおうちじゃないわ」


ねぼけていたイヴは、やっと気づきました。そう、ここはイヴの家とは全然ちがうのですから!むかしの映画で観た家に似ています。パパがたまに仕事で使うパソコンも、ママがドラマを見る大きなテレビもありません。あるのは、レンガでできたおうちに暖炉、大きな木を切って作ったような、それはそれは大きなテーブル。7人の小人が使ってもまだまだ余裕がありそう。


「ここはいったい、どこなのかしら!」


イヴは、あわてて自分が寝ていた部屋へ引き返しました。


「……わたしの部屋に、よくにてる」


でも、イヴの部屋には見えません。ここも、レンガや木でできています。そして、枕元には……。


「まあ、クッキーもミルクもなくなってる!」


そして、靴下にはプレゼントがひとつ。


「ひとつ?きょうはわたしのお誕生日でもあるのに!」


イヴのおなかが、ぐう、となります。朝からびっくりすることばっかりで、すっかりおなかがすいてしまいました。でも、イヴは困ります。


「こんなにたくさんのごちそう、だれのかしら。ちょっとくらい、たべてもいいかしら。だって、こんなにおなかがすいてるんだもの!」


だれもいない部屋で、イヴはお行儀よくイスに座りました。なんだかずっしりと重く、イヴの家にあったのよりもずいぶんいいイスです。これも、木でできていました。


イヴはまず、こんがりと焼けたターキーへ手を伸ばしました。まだできたばかりのように熱いです。


「まあ、たいへん!ママが作ったのよりもおいしいわ!ちょっとだけ、おなかがすかなくなるぶんだけ食べましょう。だって、こんなおいしいのしか食べられなくなったらたいへんだもの!」


ターキーにスープやサラダ、ミートパイにチェリーパイ、アイスクリームもあります。どれも少しずつ食べて、やっとおなかが満たされました。さあ、これからどうしましょう。まずは玄関から外に出て、ポストにかけられたプレートを確かめます。イヴの家なら、プレートにはファミリー・ネームである「ホワイト」と、それから家族みんなの名前が書いてあるはずですからね。


「イヴ・ホワイト……まあ!わたしのなまえだけだわ!ここは、わたしのおうちだというの!」


なんということでしょう、この家には、イヴの名前だけが書かれていたのです。いったいここは、なんなのでしょう。そして、外に出て気が付いたことがもうひとつあります。


「とってもさむいわ!!」


イヴが住んでいた町よりも、ずっと雪がたくさんでした。レンガでできたこの家も、すっかり雪のぼうしをかぶっています。


さて、だれかの家にかってに入ってるわけでもなく、ここがイヴの家だというなら、安心してやるべきことがあります。


「ごちそうをたべなくちゃ!」


考えるよりもまず、食べることにしました。



「シュトレン、プディング、いちごのケーキ、これは……ブッシュ・ド・ノエルかしら?せかいじゅうのお菓子がたくさん!」


もちろん、慣れ親しんだアップルパイ(カスタードでなく、砂糖で炒ったナッツがたくさんつまったもの)もあります。チョコファッジも、マカロンも、ヌガーも、キャンディコーンだってあります。まるでお菓子の家のよう!


だけども、いやに静かな世界の中で、ひとりぼっちのイヴはさみしくなってきました。ママもパパもいない、クリスマスにひとりぼっちなんてうまれてはじめてです!


「そとにでるには、パジャマはさむいわ」


なんとなしにプレゼントの箱を開けると、セーターやコート、マフラーにてぶくろまで入っていました。これで外へ出られます。イブはチョコレートとキャンディをポケットにつめこむと、外へと飛び出しました……。



「メリークリスマス!」

「メリークリスマス!」

「メリークリスマース!」


イヴはすぐに立ち止まりました。


街は、クリスマス一色!だれもかれもがクリスマスを祝っています。それだけではありません。なんと、お菓子やおもちゃの屋台では、商品がふわふわと浮いて、キラキラしています。


「それはどういうしかけなの!」


サンタさんの格好をしたおじいさんにきいてみると、にっこりと笑ってこう言われました。


「これはクリスマスの魔法さ!サンタは魔法が使えるからね!」


まあ!魔法ですって!サンタですって!!


イヴのいたところでは、魔法は本や映画の中だけのものです。それがクリスマスの、サンタの魔法ですって!サンタさんはパパとママなのは、イヴの年齢ではもう常識です。イヴは、頭がぐるぐると回っているようなきもちになりました。おじいさんは、冗談を言っているようには見えません。当たり前のことを言っているような感じでした。


「ようこそクリスマスタウンへ!ようこそクリスマスタウンへ!」

「クリスマスタウン……?」


どうやらここは、イヴの住んでいた街ではないようです。クリスマスタウン、というらしいこの街は、たしかにそれらしいようすです。いたるところにキラキラがあって、クリスマスのオーナメントやジンジャークッキー、赤と緑のリボンがたくさん。どこからかずっとクリスマスソングが流れていて、鈴の音もします。


そして、すれちがう人たちがみんな「メリークリスマス!」とあいさつをするのです。おはようやこんにちはのようにですよ?


「ここはクリスマスタウン!まいにちがクリスマスの街さ!」


イヴはなるほど、と思いました。きのう眠るまえに言ったことを思い出したのです。


「毎日が、本当のサンタさんのいるクリスマスなんだ」


街じゅうがキラキラで、お菓子やプレゼントであふれていて、本当のサンタさんがいる、にぎやかなクリスマス。


イヴは、ひとりぼっちだし、どうしようかと困ってしまいました。


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